日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] 地殻変動

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:大園 真子(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)

[SSS16-P19] 2016年熊本地震で停止していた南海トラフ沿いの長期的SSEの再活動

*小沢 慎三郎1矢来 博司1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:スロースリップ、日向灘、豊後水道

要旨

GEONETにより、2018年6月頃から南海トラフ沿いで遷移的な地殻変動が観測されている。時間依存インバージョンによる解析は、長期的SSEが2018年6月頃から9月頃まで日向灘北部で発生し、その後50km程北東の豊後水道に滑り域が移動したことを示している。2018年のSSEの滑り域は、2016年熊本地震の直前まで発生していた日向灘SSE及び豊後水道SSEの滑り残りの領域に相当している。2018年のケースは長期的SSEが応力擾乱に影響を受けた典型的な例といえ、SSEの物理的な発生機構に関する情報を与えてくれる。それに加えて、日向灘地震は前回の発生から20年程経っていること、また四国沖は地震の発生確率が今後30年以内で70~80%であることを考慮すると、2018年のSSEによる当該地域への応力変化が懸念される。

はじめに

南海トラフ沿いの日向灘、豊後水道では繰り返し、長期的SSEが発生してきた。2016年熊本地震前にも、日向灘、豊後水道で長期的SSEが発生していたが、熊本地震の発生により、日向灘、豊後水道のSSEはその進行を停止した。このことは、長期的SSEが応力擾乱に対する影響を受けやすいためと考えられるが、その後滑り残りの領域がいつ活動を再開するのかが興味の対象となってきた。そのような中、2018年6月頃から、遷移的な地殻変動が九州北部で発生し、その領域が時間と共に四国西部まで拡大していく様子がGEONETによって捉えられた。本研究では、観測された地殻変動データから地下のプレート境界でどのような滑りが発生したのか、その時空間的な変化を時間依存のインバージョンで推定した。

解析手法

解析には四国、九州のGEONET観測点257点を使用した。2013年1月~2018年1月のデータから周期成分を推定し、時系列データから除去し、その後に2017年1月~2018年1月の一次トレンド成分を取り除いている。このようにして得られた座標時系列データに対して3日間の移動平均をかけ、3日毎にサンプリングして、時間依存のインバージョンに使用した。解析期間は、2018年1月から2019年1月までとしてある。東西、南北、上下変動成分の重みは5:5:1としている。プレート境界モデルは弘瀬他(2008)を採用し、スプライン曲面でモデル化している。空間スムージングと時間スムージングのハイパーパラメータは最尤法で推定した。

結果と考察

2018年6月頃から日向灘北部のプレート境界上で滑りが発生し、9月頃に収束している。滑りの大きさは最大で10cm程に達している。その後9月頃から滑り域は日向灘北部から豊後水道へ北東に50km程移動している。2018年9月~2019年1月までの豊後水道の最大の滑りは7cmに達する。2018年のSSEで滑った領域は、2016年熊本地震直前まで発生していた長期的SSEですべりが始まりかけていた、あるいは及んでいなかった領域に相当する。2016年熊本地震に伴う応力擾乱で長期的SSEが停止し、その後荷重が加わり続けたことと、粘弾性変形による応力緩和とのバランスにより、2年後の2018年に再活動が起きたと考えられる。この事例は、長期的SSEに対する応力擾乱の典型的な例であり、長期的SSEの物理的なプロセスを理解する上で重要な事例と考えられる。