日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB14] 小学校高学年における自己効力感という精神的弾力性の機能

親との愛着と学校でのリスク対処行動とをつなぐものとして

川原誠司1, 庄子香菜絵#2 (1.宇都宮大学, 2.株式会社 龍生堂本店)

キーワード:精神的弾力性, 自己効力感, 愛着

問題と目的
 自己効力感は,精神的弾力性(レジリエンス)の機能の一つとして大きく機能する。例えば,Brown et al.(2001)の分類ではParticipationの要素として考えられる。小学校高学年は,これまでの児童期中期とこれからの中学生とをつなぐ時期として,自己発達が促される時期でもある。
 程なく「中1ギャップ」の時期を迎える小学校高学年において,それを乗り切る個人的強さを準備することは,教育上大きな課題である。精神的弾力性の涵養はその課題に寄与するものである。
 本研究では,小学校高学年の自己効力感が,それまでの親との愛着関係で促進される部分と,学校での様々なリスク対処行動につながる部分とを検討する。そのつながりを見出すことで,精神的弾力性の涵養について学校と家庭とが協力して行う必要性があることを示唆したい。
方   法
 鹿児島県内の公立小学校2校の5~6年生175名に質問紙調査を行った。有効回答者は149名(5年生78名,6年生71名/男子72名,女子77名)であった。質問紙の内容は以下の通り。
 A)親との愛着(以下,「愛着」と省略)…藤田(2003)や山口(2009)を参考に“心理的接近”に関する6項目,桜井(2003)を参考に“自律性援助”に関する6項目の計12項目を作成した。
 B)学校でのリスク対処行動(以下,「リスク対処行動」と省略)…本田・新井・石隈(2007)を参考に“援助要請”に関する4項目,加藤(2000)を参考に“危険回避”に関する4項目,金・伊藤(2004)を参考に“意思表示”に関する4項目の計12項目を作成した。
 C)学校生活の自己効力感(以下,「自己効力感」と省略)…吉川・脇田・門田・藤井・三宅(2007)を参考に,文末表現を「できるだろう」に変えて,計6項目作成した。
 A)~C)のそれぞれの項目は,5段階評定(5;とても●●~1;ほとんど●●ない)で行った。
結   果
 以下のような分析を行った。
 1)各項目の平均値…自己効力感は1項目を除き,平均値が3.76~4.05と比較的高い値であった(しかし,評定値2~1も10%程度いた)。愛着については半数の項目が3.80を超えていた。リスク対処行動については,半数の項目が3.40を超えていた。ただし,3.00を割った項目もあり,行動レベルでの意識は他ほど高くはなっていない。
 2)各内容の項目の因子分析…尺度構成のための因子分析(主因子法,バリマックス回転)を行った。愛着については,“心理的接近”がそのまま「心理的接近」(5項目),“自律性援助”が「意見の尊重」(2項目),「実行への支援」(2項目),「主体性の強調」(2項目)の計4因子構造とした。リスク対処行動については,「援助要請」(4項目)「危機回避」(3項目)「意思表示」(3項目)の3因子構造とした。自己効力感については,「自己効力感」(6項目)の1因子構造とした。
 3)因果関係の分析…2)での各尺度で,“愛着→自己効力感→リスク対処行動”という因果関係を想定したパス解析を行った。愛着について,“心理的接近”と“自律性援助”とを並列するより,“心理的接近→自律性援助”という流れのほうが適切と考えられたので,その流れを組み入れた分析を行った。下の図の通りの結果となった。
考   察
 自己効力感を中間の変数とすることで,愛着とリスク対処をつなげる重要な要素として位置づけることができた。リスク対処行動に関して,親からの「意見の尊重」の柔らかい影響と,学校生活の「自己効力感」の比較的強い影響が見られた。その自己効力感には,親からの愛着の関連が見出された。この時期の自己効力感という学校生活において重要な機能を,学校・家庭の両方の協力の下で育てていくことの重要性が示唆された。
付   記
 本発表のデータは,第2発表者が第1発表者の指導のもと作成した卒業論文によるものである。第2発表者の了承を得た上で,発表資格の都合上,第1発表者を責任発表者として連名発表した。なお,本発表の題名や文章内容,分析の一部は,第1発表者の責任において再構成した。