日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB15] 保幼小連携に対する保護者の期待と効果の認識

保護者の属性の観点から

一前春子1, 天野美和子#2, 秋田喜代美3 (1.共立女子短期大学, 2.東京大学大学院, 3.東京大学)

キーワード:保幼小連携, 移行期, 保護者

問   題
 保幼小連携は移行期の子どもへの支援と同時に,その保護者の支援も目的としている。そして,保護者は保幼小連携の参加者でもある。よって,保護者の保幼小連携や移行に対する期待や効果の認識を検討することで,保護者の期待を取り入れた連携の仕組みを構築することが重要であると考えられる。しかしながら,保護者支援や参加を検討した研究(一前・秋田,2012)は少なく,連携の実践内容や過程を検討した研究(一前・秋田,2011)はあるが,その効果の認識を検討した研究はみられない。
 そこで,本研究は移行期の子どもをもつ保護者の保幼小連携に対する期待と連携の効果の認識における保護者の属性の影響を検討することを目的とする。保護者の属性として,施設の要因(保幼・小)と順位の要因(第一子・第二子以降)を取り上げる。
方   法
協力者 地方自治体A市,地方自治体B市の幼稚園・保育園・認定こども園の5歳児クラスに在籍する幼児の保護者692名(自治体A242名,自治体B450名)と小学校1年に在籍する児童の保護者700名(自治体A109名,自治体B591名)。
調査実施時期 2016年1月~2月に実施。年間の連携の体験を振り返り回答することができるようこの時期を選定した。
手続き 質問紙調査を実施した。A市では,園・小学校を通して保護者への調査依頼と質問紙の配布を行い,回収は調査実施者に郵送する方法を用いた。B市では,園・小学校を通して保護者への調査依頼と質問紙の配布回収を行った。
調査項目 (1)子どもに対する保幼小連携の取り組みの効果7項目(4件法),(2)保護者に対する保幼小連携の取り組みの効果7項目(4件法),(3)小学校入学時に知りたい情報10項目(4件法),(4)保幼小連携に対する期待15項目(4件法)から成る。幼稚園・保育園・認定こども園と小学校の調査内容は同じであるが,文脈にあわせて表現を変更している箇所がある。
結果と考察
 自治体間の分析については,サンプル数の違いおよび園間や小学校間の分析と併せて行う必要があると考えられるため,発表では2自治体をあわせた結果を報告する。なおいずれの市でも因子構造等は同様であることを事前に確認している。
子どもに対する保幼小連携の取り組みの効果
 施設(保幼・小)×出生順位(第一子・第二子以降)の二元配置の分散分析を実施した。「印刷物の配布」「保護者同士の話し合い」で施設の主効果(いずれもp<.01)が有意であった。保幼保護者は小学校保護者よりも効果を高く認識していた。「小学校体験」で出生順位の主効果(p<.05)が有意であった。第二子以降の保護者は,第一子の保護者よりも効果を高く認識していた。「保育者・教師との話し合い」で交互作用(p<.05)が有意であった。小学校の第一子保護者は小学校第二子以降の保護者よりも,第二子以降の保幼保護者は第二子以降の小学校保護者よりも効果を高く認識していることが明らかとなった。
保護者に対する保幼小連携の取り組みの効果
 施設(保幼・小)×出生順位(第一子・第二子以降)の二元配置の分散分析を実施した。「印刷物の配布」「保護者同士の話し合い」で施設の主効果(いずれもp<.01)が有意であった。保幼保護者は小学校保護者よりも効果を高く認識していた。保幼保護者は園からの印刷物による情報取得と同時に,保護者同士の話し合いによる情報共有の効果を高く認識しており,保護者間のネットワークを築くことが効果の高い連携の取り組みであるといえる。
 「印刷物の配布」(p<.05)「行事の参加見学」(p<.01)「小学校体験」(p<.01)で出生順位の主効果が有意であった。第二子以降の保護者は第一子の保護者よりも効果を高く認識していた。第二子以降の保護者が第一子の保護者よりも連携の効果を高く認識した原因の一つとして,第一子のときの経験との比較や小学校で行われる連携についての知識を持っていることで,連携の効果を認識しやすくなったことが考えられる。
 「保育者・教師との話し合い」で交互作用(p<.01)が有意であった。小学校の第一子保護者は小学校の第二子以降の保護者よりも,第一子の保幼保護者は第一子の小学校保護者よりも,第二子以降の保幼保護者は第二子以降の小学校保護者よりも効果を高く認識していた。「小学校体験」などとは逆に,小学校保護者の中では,第一子の保護者が第二子以降の保護者よりも「教師との話し合い」の効果を高く認識していた。きょうだいの小学校での体験から情報を得られない第一子の保護者にとって,専門的な立場から情報の提供や相談を受付ける教師との話し合いの効果が高く認識されたといえる。
 「講演会」で交互作用(p<.05)が有意であった。第二子以降の保幼保護者は第二子以降の小学校保護者よりも効果を高く認識していた。
小学校入学時に知りたい情報
 「子どもの育ちに関する関心」「保幼小連携の枠組への関心」「保護者参加への関心」の各因子の項目平均値を算出し,下位尺度得点とした。施設(保幼・小)×出生順位(第一子・第二子以降)の二元配置の分散分析を実施した。その結果,「子どもの育ちへの関心」,「保幼小連携の枠組への関心」,「保護者参加への関心」で,施設の主効果(いずれもp<.01)と出生順位の主効果(いずれもp<.01)が有意であった。保幼保護者は小学校保護者よりも,第一子の保護者は第二子以降の保護者よりも情報を知りたいと認識していた。
保幼小連携に対する期待
 「連携体制の確立への期待」「移行期の教育の質の向上への期待」「情緒的情報的支援への期待」の各因子の項目平均値を算出し,下位尺度得点とした。
 施設(保幼・小)×出生順位(第一子・第二子以降)の二元配置の分散分析を実施した。その結果,「連携体制の確立への期待」(p<.05),「移行期の教育の質の向上への期待」(p<.01)で施設の主効果が有意であった。保幼保護者は小学校保護者よりも連携への期待が高かった。保幼保護者は,アプローチカリキュラムなどの移行期の教育の取り組みや園と小学校間の情報交換などの連携の仕組みの構築によって,子どもが園から小学校の環境の変化に適応することを期待していたと考えられる。
 「移行期の教育の質の向上への期待」で出生順位の主効果(p<.05)が有意であった。第一子の保護者は第二子以降の保護者よりも連携への期待が高かった。第一子の保護者は,移行期の保育・教育や子どもの発達の見通しに関する情報をもっていないため,それらの情報を得ることや子どもが小学校教育との連続性をもった保育・教育を受けることができる環境への期待が高いと考えられる。
今後の課題
 保護者のもつ期待や知りたい情報と保護者の効果の認識との関連内容の分析,実際の連携の取り組みと効果の関連の分析,園間や小学校間にみられる相違とその相違が生じた要因の分析が今後の課題である。
謝辞・付記 ご協力いただいたA,B両市の保護者の方々に心から御礼申し上げます。なお,本研究はJSPS科研費15K04332の助成を受けたものです。