The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PB21] 教育心理学のテキストにおける学習

どのような内容が扱われているか

大芦治 (千葉大学)

Keywords:学習, テキスト(教科書), 学習観

 大学の教職課程ではふつう「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程を含む。)」として「教育心理学」が開講されている。
 著者は,この教育心理学に関するテキストにおいて,“学習(learning)”の概念定義がどのようにされているかを検討した(大芦, 2016)。今回は,それにつづき,それらのテキストが学習を扱う章や節においてどのような事項を取り上げているかについて検討してみることとした。そうすることによって,これらのテキストの編著者である心理学者,教育心理学者たちがいかなる学習観をもっているかが,より具体的に明らかにできると考えられたからである。
テキストの収集方法と検討対象数
 1976年から2015年までに出版された教職課程用の教育心理学のテキストで,現在,入手の可能なもの64点を選択した収集した。これらは国立情報学研究所の書誌検索サイトCiNii Books,インターネット通信販売サイトAmzon.co.jp上で検索し,選び出したものである。
収集したテキストの分析結果
 すべてのテキストのそれぞれについて,その記述内容の傾向からいくつかのカテゴリーに分類することにした。すべての記述内容を精査した結果,まず,基本的なカテゴリーとして以下の3つを設定することとした。
カテゴリーⅠ(30点,46.9%);学習に関する章がおおむね2つあり,前半の1つでは基礎理論として行動論と認知論が紹介され,それに関連して主に実験をベースにした学習心理学の諸概念が紹介されている。そして,後半の章では,今度は,教授―学習過程に中心が置かれている。
カテゴリーⅡ(6点,9.4%);これらのテキストでは,カテゴリーⅠのなかの前半の章の内容,つまり,実験をベースにした学習心理学の諸概念が取り上げられているが,教授―学習過程に関する内容はあまり扱われていない。
カテゴリーⅢ(13点,20.3%);テキストの編著者の視点が強く出され,内容も通常の実験をベースにした学習心理学の内容は積極的に取り上げられていない。教授―学習過程に関する概念は比較的多く紹介されているが,自由に構成されている。
 また,中間的なカテゴリーとして,上記のカテゴリーⅠとⅡの中間的な位置づけとなるカテゴリーⅠ&Ⅱ(6点,9.4%),さらに,カテゴリーⅠのように実験的な研究をベースに置いた学習心理学の諸概念や,典型的な教授―学習領域の諸概念がある程度の分量を割いて取り上げられてはいるが,その扱い方がカテゴリーⅠよりより教育場面に繋がるような意図をもっているなど著者なりの視点を加えたり,カテゴリーⅢのように比較的に構成されていたりする傾向が見られるカテゴリーⅠ→Ⅲ(9点,14.0%)が見いだされた。
 つぎにそれぞれのテキストで,どのような事項をとりあげているかについてみたところ,認知(認知論,認知心理学など含む)49点,条件づけ47点,プログラム学習46点,記憶42点,有意味受容学習39点,発見学習39点,授業38点,ATI(適性処遇交互作用)36点,知識30点,学習指導29点,行動(行動主義,行動論など含む)28点,教授27点,完全習得学習24点,問題解決24点,観察学習24点,連合説,連合理論など21点,洞察19点,ジグソー学習 ジグソー法など16点CAIが15点,バズ学習など14点,社会的学習13点,集団,集団学習など11点,モデリング8点,スキーマ8点となっていた。もっとも多いのは認知(認知論,認知心理学など含む)などで76.6%のテキストでは,認知,認知心理学などの用語や概念が紹介されていた。先の研究(大芦,2016)では,多くのテキストが学習の定義として行動主義的なものを採用していたが,この結果はそれと対照的なものだった。教育心理学において行動主義的な学習観と折り合いをつけてゆくことの難しさがわかる。