The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PB24] 友人と校則に関する自伝的記憶を想起した時の感情状態変化に関する研究

想起テーマの特定性を要因に加えて

兵藤宗吉 (中央大学)

Keywords:自伝的記憶, 友人, 校則

問題・目的
 自己に関する過去の出来事に関する記憶は自伝的記憶と呼ばれている。多くの研究で自伝的記憶と感情の関係について検討されてきた。例えば,自伝的記憶の想起にはネガティブ気分が低減する感情制御の効果があることが示唆されている(兵藤,2014; 兵藤・浅野,2013; 兵藤・中山・小川,2013)。しかし,上記の研究では想起テーマの時期の特定性の違いについて検討されていない。そこで本研究では,想起テーマの特定性を操作し,想起された出来事の記述前後の気分状態の変化を多面的感情尺度で評価し,想起テーマの特定性と感情制御の関係を検討した。想起数と感情価の関係について,別に機会に報告する。
方   法
参加者:大学生45名(男性13名,女性32名)(平均年齢21.36歳)が実験に参加した。
デザイン:2(特定性:特定性低,特定性高;Between)×2(気分評定:記述前,記述後;Within)の2要因混合計画であった。
実験冊子:フェースシートと気分評定用紙2枚(出来事の想起前後),出来事を記入する用紙をテーマごとに1枚ずつ,自伝的記憶の評定方法が書かれた用紙1枚の計6枚を順番にまとめて実験冊子とした。実験冊子は特定性の2条件とテーマの順番によって4パターン作成された。想起テーマは「友人」と「校則」であった。特定性はテーマの前に「中学校の」と記述する条件(特定性高条件)と何も記述しない条件(特定性低条件)を被験者間要因として設定した。
気分評定尺度:寺崎・岸本・古賀(1992)の多面的感情状態尺度を元に気分評定尺度を作成した。ポジティブ尺度9項目とネガティブ尺度9項目の計18項目をそれぞれ5件法で答えさせた。
手続き:大学の講義の時間を利用して集団法で行った。実験冊子を配布後,実験者の指示によって実験を行うことを伝えフェースシートに記入させた。その後,自伝的記憶想起前の気分状態を測定した。気分状態測定後,5分間ずつそれぞれのテーマに関する出来事をできるだけ多く想起させ,実験冊子に一文ごとに記入させた。想起課題終了後,気分状態を測定した。最後にそれらの出来事に対する感情価,鮮明度,懐かしさを5段階で評定させた。実験時間は20分程度であった。
結   果
 欠損のあった2名のデータを除いて分析を行った。なお表1に各条件における出来事の記述前後の気分評定尺度の下位因子の平均得点を示した。
 特定性の各条件において,下位因子ごとに出来事の記述前後の平均得点に関して対応のあるt検定で比較した。その結果,特定性高条件において出来事の記述後に「倦怠」因子の得点が有意に低下した(t(19)=3.91,p<.001)。特定性低条件における「倦怠」因子得点を含めたそのほかの因子においては記述前後の有意な差は認められなかった。
考   察
 これまでの諸結果(兵藤,2014; 兵藤・浅野,2013; 兵藤・中山・小川,2013)と同じように,自伝的記憶内のテーマについて10分間想起させるとネガティブ感情である「倦怠」の得点が有意に低下した。ただし,上記の先行研究では,「抑うつ・不安」と「倦怠」の二つの得点が低下したが本研究では,特定性高条件の「倦怠」においてのみに有意に低下した。
 想起テーマと時期についての検討は,兵藤・李(2015)より始めているが,その結果によると,ネガティブにおける「抑うつ・不安」と「敵意」において得点が有意に低下したことが認められた。これまでの多くの実験においてネガティブ感情の得点が低下すること,ポジティブ感情には有意な変化が見られていないことと,各テーマによって微妙に結果が異なることは興味深いといえる。今後も,さらに研究を進めたいと考えている。