The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PB25] 大学新入生の能力観と目標志向性・大学観

池田智子 (安田女子大学)

Keywords:能力観, 目標志向性, 大学観

問題と目的
 Dweck & Leggett(1988)は,知能に対して持つ信念である知能観によって,課題遂行の目標をどこに置くかという目標志向性が異なると主張している。すなわち,知能は固定的で変えることができないという実体的知能観を持つ者は「友だちに注目されたい」など,課題を遂行することで自分の能力を査定しようとするパフォーマンス目標を設定するのに対し,知能は学習によって増加させることができるという増加的知能観を持つ者は,「わかることが楽しい」など,挑戦や学習を通して自分の能力を成長させようとするラーニング目標を設定すると考えられる。この知能観を自分の能力に対する信念である能力観に置き換えても,その違いが,学習者の学習に対するさまざまな態度,価値観,行動に影響を及ぼすことが予想される。特に,大学という新しい学習環境に身を置いた大学新入生にとって,自分の能力を固定的(実体的)と捉えているか,拡張的(増加的)と捉えているかという能力観の違いは,大学での学習における目標志向性はもちろん,学習する場である大学に対する見方である大学観や将来の目標意識にまで影響を及ぼすものと考えられる。本研究では,大学に入学して1か月の1年生を対象に,能力観と学習の目標志向性,大学観,将来の目標意識の関係について明らかにすることを目的とした。
方   法
調査対象者 女子大学生1年生(回答者79名のうち有効回答者78名が分析対象となった)。
調査時期 2016年5月10日の授業時間中に調査を実施した。
質問紙 ①能力観を問う3項目(例:私は一定の能力をもって生まれてきており,それを変えることは実際にはできないものだと思う・私の中で,能力はほとんど変えることのできないものだと思う・新しいことを学ぶことはできても,基本的な能力は変えられない)(及川(2005)の知能観を測る3項目の「才能」の部分を「能力」に置き換えて用いた)に5件法で回答を求めた。得点が高いほど固定的(実体的)能力観を持っているとみなす②「あなたにとって大学とはどのようなところですか」と問う大学観尺度25項目(杉浦・尾崎・溝上, 2003)を使用した。「出会いの場」,「消極的モラトリアムの場」,「勉強の場」,「自分探しの場」,「将来準備の場」の5つの下位尺度から構成され(例:交友関係を広げる場所である・社会の責任から逃れるための場所である・新しい知識を追い求める場所である・自分探しをする場所である・社会に出てから必要な知識を身につける場所である),5件法で回答を求めた③「あなたが勉強する理由は何ですか」と問う,目標志向性尺度26項目(速水・伊藤・吉崎, 1989)を使用した。パフォーマンス目標,ラーニング目標設定を測る項目から構成され(例:難しいことに挑戦するのが楽しいから・良心や先生にほめられたいから),5件法で回答を求めた④目標意識尺度35項目(都筑, 1999)に5件法で回答を求めた。この尺度は,「将来への希望」,「将来目標の有無」,「時間管理」,「計画性」,「将来目標の渇望」,「空虚感」の6つの下位尺度からなる。
結果と考察
 能力観を問う3項目の平均値(2.65)より高得点の学生を固定的能力観群,平均より低得点の学生を拡張的能力群とし,それぞれの大学観,目標志向性,目標意識の下位尺度ごとの得点を,能力観(固定的・拡張的)に関する1要因分散分析により比較した。分散分析の結果,能力観の主効果が有意,あるいは有意傾向であったのは,目標志向性のラーニング目標(F(1,74)=4.20, p<.05),目標意識の将来への希望(F(1,74)=3.56, p<.10),将来目標の渇望(F(1,74)=3.32, p<.10),空虚感(F(1,74)=6.14, p<.05)であり,拡張的能力観を持つ学生の方が固定的能力観を持つ学生より,他者の評価から独立したラーニング目標を設定する傾向や,将来へ希望を持ち,将来目標を渇望する傾向が高く,空虚感が低いという結果が得られた。自分の能力を拡張的に捉えている学生の,自分の能力を高めるために大学で勉強するという意識を高く持ち,将来に明るい希望を持ち,確かな将来目標を今後確立したいと願って充実した気持ちで大学生活を始めている姿が示唆された。
 本研究の結果において,能力観と大学観に有意な関係が認められなかった。この結果については,本調査は大学に入学して1か月後の調査であったため,大学観は持っていても,自分の能力観と関わるような大学観をまだ形成していない可能性があげられる。今後も,縦断的に学生の能力観と大学観との関係の変化を見ていく必要がある。