The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PB33] 大学生による「学ぶこと」と「研究すること」の喩え

西垣順子 (大阪市立大学)

Keywords:大学生, 学ぶことについての認識, 知識構築型学習

 10歳代終盤は,子ども期から成人期への移行期(emergent adulthood)の始まりにあたる。田中(1986)に従うと新しい発達の階層の始まりでもある。西垣(2015)は田中の記述を検討し,この時期の発達上の質的変化の指標として「知識を歴史的に変遷するものとして捉えなおすこと」が挙げている。「新しい学び(知識構築型の学び)」を体験することで学生は,「学ぶ」や「発達する」についての認識を更新し,以前の認識との比較対照を通じて,知識のあり方について新しい認識を獲得できると考えられる。そこで本研究では,大学生が実際に「学ぶ」や「研究する」をどう理解しているかを調査する。それらと関連して,「読む」「書く」「発達する」についての認識も調査する。
 なおこれらの調査結果は,学生が「学ぶ」や「研究する」について学ぶための教材としても,利用可能と思われる。初年次教育では大学での学びについて理解・実践することが目標となるが,教師の視点からの議論には限界もあり,学生自身が学びをどう語るかから教育のあり方をさぐることも必要と考えるためである。
方   法
 調査協力者 公立大学の学生125名(1年98名,2年23名,3年1名,4年3名)。学部は文系理系の8学部。2011年10月初旬の教養教育の授業で調査票を配布・回収した。
 調査票 A4 1枚で,「読む」「書く」「学ぶ」「研究する」「発達する」をそれぞれどの言葉で喩えるかを尋ね,その理由も併せて尋ねた。所要時間は10分程度であった。
結果と考察
 回答をKJ法で分類・整理した。「発達する」と「研究する」の整理図を図1と図2に示す。
(1) 「発達する」は「成長」や「変化」といった自動詞的表現で喩えられ,他4語は「調べる」などの他動詞的表現で喩えられた。また,ネガティブな方向の喩や,個人よりも人類や社会全体に関わるものとしての喩もあった。発達と他の4語の間に重なりがないように思われる。
(2) 「発達する」と「研究する」では,回答者が十分な喩を思いつかなかったと思われる回答が,それぞれ14回答と6回答あった。
(3) 「読む,書く,学ぶ,研究する」はそれぞれ,浅い水準の認識の喩から深い水準の認識での喩に広がるとともに,「人生」「生きる」などの感情的・人格的な喩の方向への広がりも持っていた。
(4) 喩え方の傾向には個人による個別の傾向がある可能性が示唆されたが,その背景までは明確でない。
 青年の発達保障を実現する大学教育を検討するために,研究の今後の展開として次の3点をあげる。(1)整理図を教材に用いた初年次教育などの実践研究。(2)整理図をもとに「学ぶ」や「研究する」という概念についての質問票などを使い,初年次学生と上級生とで比較する。(3) (2)の質問票を用いて,多様な大学でのデータを収集する。
引用文献
田中昌人 (1987). 『人間発達の理論』,青木書店
西垣順子 (2015). 1960-70年代の発達保障運動と良育実践の記録映画を使った発達教育の可能性と今後の研究課題,『人間発達研究所紀要』,第28号,pp.18-30.
本研究は科研基盤(c)26380892による助成を受けた。