The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

Sat. Oct 8, 2016 1:00 PM - 3:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PB36] 日本人英語学習者の英文解釈方略

ボトムアップ方略かチャンク方略か!

齋藤嘉則 (香川大学教職大学院)

Keywords:英文解釈, ボトムアップ方略, チャンク方略

目   的
 2020年の東京オリンピック開催をスローガンとして,現在,英語教育の改革が急速に進められている。「聞くこと」「話すこと」を中心に,特に,口頭でのコミュニケーションを円滑におこなうことのできる能力の育成が求められている。
 しかし,英文を「聞くこと」や「話すこと」,「読むこと」や「書くこと」において,日本人英語学習者は,英文をどの様に処理して,その意味を理解しているのか,解釈しているのか,その処理過程の傾向を明らかにすることが必要である。なぜならそれは,今後,教室内外の英語の教授法を改善していく上で,必須の知見だからである。
本研究では,日本人英語学習者が英文を処理する際の方略活用について,二つの仮説のもと,どちらの仮説が支持されるのか実験により検証する。
仮   説
ボトムアップ仮説(B仮説):日本人英語学習者は,英文を解釈するとき,一語一語分析しながら,最後にそれらの分析結果を統合して英文の意味を解釈する,というボトムアップ方略を活用している。
チャンク仮説(C仮説):日本人英語学習者は,英文を解釈するとき,英文全体を,または,その一部を,意味の塊(チャンク)として捉えて処理することで,その英文を解釈する,というチャンク方略を活用している。
方   法
実験参加者:日本人英語学習者14名,大学卒業後,特に,英語を専門に研究したり,学習したりはしていない社会人とした。(男:5,女:9)
材 料:中学校2年生使用の検定教科書に掲載されている12の英文で構成されたストーリーを実験材料として使用した。
手続き:印刷した12の英文を実験参加者に提示する。参加者は,目の前に中学校2年生がいるものと想定して,その生徒にわかるよう説明しながら英文を日本語に訳す。その際の説明を自ら回答用紙に記述する。この記述文を分析する。
結   果
 実験参加者の記述文を分析して,12の英文がそれぞれボトムアップ方略(B方略),または,チャンク方略(C方略)のどちらの方略で解釈されたのかを分類した。その結果がTable 1である。
考   察
 今回の実験結果においては,ボトムアップ方略が多用され,B仮説が強く支持された。日本の英語教育が英文の分析的理解を重視してきたことのひとつの証左といえるかもしれない。
 しかし,ボトムアップ方略は原書購読などの精緻な英文理解には欠かせない方略であり,一方,チャンク方略は英文処理の速度が速いことから,現在,求められている口頭での英文のやり取りの際の英文処理に向いている。すると,双方は二律背反的なものではないのではないか。本研究において,ふたつの仮説を設定したものの,それぞれの方略が,適時,適切,瞬時に有効に,バランスよく活用できることこそが,英語の4技能バランスの取れたコミュニケーション能力の育成には欠かせないのではないか,との考えに至った。
 最後に,本研究での実験結果においては,B仮説が強く支持されたものの,それは,今回の実験方法が記述式によるところも大きく影響したのではないか,と考えることもできる。さらに,今後,二つの仮説の妥当な検証方法を工夫することとともに,ボトムアップ方略,チャンク方略をバランスよく習得,活用できる教授=学習方法の開発も必要である。今後の課題としたい。
参考文献
白井恭弘 (2008). 外国語学習の科学 岩波書店