日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB56] 大学受験でのあがりとパフォーマンスに親の養育態度が及ぼす影響

岩瀬浩子1, 大月友#2 (1.NPO法人 特別支援教育研究会 未来教室, 2.早稲田大学)

キーワード:大学受験, あがり, 親の養育態度

問題と目的
 大学受験の成否は将来への影響が大きく,その重要性からあがりを経験する学生は多い。有光(2005)などの知見からあがりを制する方略は明らかになってきているが,大人と違い大学受験時は,まだ自らのあがりを制する方略を持っている可能性は低い。そのため大学受験でのあがりを防ぐためには,あがりの個人差,とりわけ親の養育態度との関連性を明らかにする必要がある。しかし,あがりの個人差の親の養育態度との関連性に焦点をあてた研究はみられない。そこで,本研究では,大学受験の筆記試験でのあがり経験を通して,あがりと親の養育態度との関連性を明らかにすることを目的とし,研究1として質問紙調査,研究2としてインタビュー調査を行う。
方   法
研究1 調査対象:首都圏の大学生,大学院生計160名(男性56名,女性104名。平均年齢20.2歳)測度:1.フェイスシート 2.一般的なあがりやすさに関する質問 3.大学受験時のあがり経験とその状況 4.あがり経験の特徴質問紙(Features of Agari Experience Questionnaire; FAEQ)(有光・今田,1999a) 5.パフォーマンスの成功度 6.子どもの認知する親の養育態度「統制」尺度(姜・山崎,2013) 研究2 調査対象:首都圏の大学に通う大学生2名(男性1名,女性1名。平均年齢21.5歳)調査方法:個別の半構造化面接90分 分析方法:グラウンデッド・セオリー・アプローチ;GTA(戈木クレイグヒル編,2013)を用いた。
結   果
研究1 子どもの認知する親の養育態度の「統制」次元尺度の各因子項目合計得点と,FAEQの合計得点,パフォーマンスの成功度の間で相関分析を実施した結果,親の養育態度の「統制」次元の因子の「一方的統制」とあがりの状態の因子「自己不全感」(r=-.16,p<.05),「震え」(r=-.24,p<.01),「他者への意識」(r=-.16,p<.05),「あがりの合計得点」(r=-.19,p<.05)と弱い負の相関が見られた。パフォーマンスの成功度は親の養育態度「統制」次元の因子のいずれとも,有意な相関は見られなかったが,あがりの状態の因子の「自己不全感」(r=-.39,p<.01),「生理的反応」(r=-.24,p<.01),「あがりの合計得点」(r=-.21,p<.01),で弱い負の相関がみられた。また親の養育態度「統制」次元の「モニタリング」,「一方的統制」因子をいずれも高群(≧+1SD)と低群(≦-1SD)の2群に分け,個人のあがりやすさの認知を従属変数とした2要因分散分析を実施した結果,個人のあがりやすさの認知に有意な交互作用が認められた(F(1,22)=5.04,p<.05)。分析の結果から「モニタリング」「一方的統制」ともに低い群が最も自身のあがりやすさを認知していることが示唆された。
研究2 図1で示した10のカテゴリーと,それぞれのカテゴリー間の関連が明らかになった。
総合考察
 研究1で親の養育態度のうち「一方的統制」的養育態度が,大学受験でのあがりに影響し,パフォーマンスの成否へも間接的に影響していることが示唆された。さらに新しい知見として,①個人内での「あがりの度合い」の増減のメカニズムと「結果を含めたパフォーマンス」の成否との関係,とりわけ親の養育態度のうち,子どもに対する高い受容が「子どもの自分を信じる力の度合い」を左右し,その結果個人のあがりやすさや「あがりの度合い」に関連していること(研究2)②「放任」的養育態度が「あがりの度合い」を高める養育態度であること(研究1,2)③「結果を含めたパフォーマンス」の成否と直接関係があるのは「あがりの度合い」だけで,親の養育態度との関連性は間接的なものであること(研究1,2)が示唆された。以上のことから,今後子育ての中で,親が子どものあがりやすさや「あがりの度合い」を養育態度の工夫で軽減することができる可能性と,重要な場面での「あがりの度合い」を下げるためのアドバイス可能性が高まったと考えられる。しかし,研究2は調査対象者が2名と少なく,理論的飽和に達していないため,今後のさらなる研究が望まれる。