日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(01-64)

ポスター発表 PB(01-64)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PB61] スポーツにおける練習動機づけ,欲求充足,目標志向,練習態度の関連

田中希穂 (同志社大学)

キーワード:スポーツ動機づけ, 自己決定理論, 練習態度

目   的
 スポーツ領域において,動機づけは古くから盛んに研究が行われてきた分野であり,これらを大別すると達成動機と参加動機の2つの観点から検討されている。達成動機はAtkinsonの認知的な枠組みやHaterのコンピテンス動機づけ理論を適応したものが中心である。参加動機は,自己効力感の概念と目標理論の概念を適応したものが中心である。しかし,これらの研究はいずれも根底ではコンピテンスを扱っているものである。そこで,内発的動機づけに関する中心的理論である自己決定理論(Deci & Ryan, 1989)の観点からスポーツ参加動機を検討し,コンピテンスに加えて自律性の概念を取り入れ,より包括的な枠組において検討を試みる。
 本研究では,自己決定理論を基盤に,ソフトボール部員の練習に対する動機づけが,心理的欲求の充足,目標志向,スポーツに対する姿勢におよぼす影響を検討する。先行研究や他の領域における研究結果より,スポーツ参加において,自律的に動機づけられている選手は,満足感やコンピテンスの知覚が高く,課題志向的であり,その活動への積極的な従事を示す傾向があると予測した。
方   法
 参加者:女子大学ソフトボール部の部員40名。
 測度:①動機づけ尺度‐Pelletier et al.(1995)のSports Motivation Scaleの28項目を翻訳した。内発的動機づけ,同一視的調整,取り入れ的調整,外的調整,無力状態を測定した。②心理的欲求尺度‐田中(2004)の作成した9項目を用い,コンピテンス欲求,自律性欲求,関係性欲求を測定した。③目標志向尺度‐Duda(1989)のTask and Ego Orientation in Sportsの12項目を翻訳し,課題志向性と自我志向性を測定した。④練習態度尺度‐松田ら(1981)のTaikyou Sports Motivation Inventoryから8尺度45項目を抜粋した。3つの帰属スタイル(努力,能力,運),コーチ受容,コーチ不適応,練習意欲,知的興味,困難の克服,精神的強さ,勝利志向性を測定した。すべての尺度は6段階評定であり,α係数によって各下位尺度は妥当であると判断した。
結果および考察
 選手を動機づけの傾向に基づいて分類するために,5つの動機づけ変数を用いて,Ward法・2クラスタ指定による非階層的クラスタ分析を行った。t検定を用いて動機づけ得点を比較した結果,内発的動機づけ,同一視的調整,取り入れ的調整において,クラスタ1の方がクラスタ2より高い得点を示した(t=5.94, 3.72, 2.00, p<.001, .001, .10)。そこで,クラスタ1を自律性高群,クラスタ2を低群とした。
 心理的欲求の充足に関しては,自律性欲求と関係性欲求において,クラスタ1の方が高い得点を示した(t=2.04, 1.90, p<.05, .10)。選手の意見を聞き入れ,選手の自主性や選択権を重視することによって,選手の練習に対する動機づけを高めることができると考えられる。
 目標志向においては,自律性高群の方が課題志向・自我志向ともに高い得点を示した(t=2.05, 1.82, p<.10, .10)。自律的に練習に参加している選手は,競技そのものに対する個人的な進歩に着目する。このような結果は,他の領域における多くの先行研究の結果と一致する。これらの選手が自我志向目標の得点も高かったことは,能力を示すことによって実力が評価され,他者との競争状況が避けられないというスポーツ競技の特性からすると妥当であるといえる。
 原因帰属においては,自律性高群の方が努力帰属において高い点を示した(t=2.17, p<.05)。努力帰属は,失敗経験においても自己効力感や自尊心の低下を防ぎ,無力感への陥りにくさを導くと考えられる。
 コーチとの関係性では,コーチ受容の得点において,自律性高群の方が高かった(t=1.83, p<.10)。自律性の高い選手は,監督やコーチとの間に信頼関係が構築され,自分の目標達成のための手段の1つとしてコーチからの指導やスキル伝達をとらえているのではないかと考えられる。
 競技に対する態度においては,困難の克服の得点のみ自律性高群の方が高かった(t=3.089, p<.01)。自律性の高い選手ほど,困難な場面に直面したり失敗を経験したりしても,あきらめたりくじけたりすることがなく,その状況を乗り越えようと努力すると考えらえる。
 以上のことから,スポーツに対する自律的な動機づけは,心理的欲求の充足や,勝利にこだわりながらもスキルの向上を目指す,努力重視,そしてコーチとの良好な関係を導く傾向があることが示された。今後は,このような動機づけが実際のパフォーマンスとの関連を検討する必要がある。