The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC(65-84)

ポスター発表 PC(65-84)

Sat. Oct 8, 2016 3:30 PM - 5:30 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PC65] 教員養成大学生のインクルーシブ教育実践の準備性に関する検討

教育実習事前指導期の教育体験活動が及ぼす影響について

渡邉雅俊 (國學院大學)

Keywords:教員養成, インクルーシヴ教育実践の準備性, 成功体験

問題と目的
 通常学級の教員もインクルーシブ教育実践の専門性を高めることが求められている。教員養成大学では全ての在学生に対し,その資質を備えた状態(準備性)の形成を目指した教育プログラムを提供する必要があるのではないだろうか。本研究は,インクルーシブ教育実践の準備性を促す学習活動を探るために,近年,多くの教員養成大学で実施されている教育体験活動に着目する。具体的には,特別な教育的支援を必要とする児童生徒(SNE児)との接触経験がインクルーシブ教育実践の準備性に及ぼす影響を明らかにする。
方   法
 調査対象者:対象は,教員養成系学部に在籍する大学3年生のうち,2年生時に実習科目の「教育インターンシップ」を受講した155名(男性89名,女性66名)であった。この科目は教育実習の事前指導として位置づけられ,小・中学校において1日2時間程度の教育体験活動を18回以上行うことで,単位として認定される。調査手続き:調査は,3年生の4月初旬に講義時間を使用して集団で実施した。調査項目:教育体験活動は「教育体験活動におけるSNE児との接触経験の有無」「接触での成功体験(5項目・5段階評定)」「接触経験のエピソード(記述)」であった。インクルーシブ教育実践の準備性については,「インクルーシブ教育に対する態度(4項目・5段階)」「特別支援教育への学習意欲(4項目・5段階)」とした。本研究では,準備性を「インクルーシブ教育に対して肯定的態度を有し,特別支援教育の基礎的な知識とスキルが備わった状態」と捉える。ただし,対象者は3年生であるが,これまで特別支援教育に関連する科目は受講していない。そこで,今回は特別支援教育への学習意欲を調べることにした。また,これらに加え,教育実習を目前に控えた時期であることから,「教育実習不安(6項目・5段階評定)」と「教師効力感(6項目・5段階評定)」も調査項目に含めた。
結   果
 教育体験活動におけるSNE児との接触経験の有無:対象者のうち78.8%にあたる122名が「有る」と回答した。接触での成功体験:接触経験が有るとした対象者122名の平均値(標準偏差)は,17.57(3.04)であった。これらの結果に基づき,対象者を接触での成功体験高群(n=69, M=19.65,SD=1.54)と成功体験低群(n=53,M=14.85,SD=2.25),接触経験無し群(n=33)に分けた。Table 1に,接触経験内容別にみた各要因の平均値と分散分析の結果を示した。「インクルーシブ教育に対する態度」は,有意差(F(2,154)=4.85, p<.01)がみられ,Tukey法による多重比較の結果,成功体験高群の得点が接触経験無し群よりも有意に高かった。「特別支援教育への学習意欲」についても有意差が示された(F(2,154)=17.78, p<.01)。多重比較によれば,成功体験高群の得点が成功体験低群,接触経験無し群よりも高く,成功体験低群は接触経験無し群よりも高かった。また,「教育実習不安」では,有意差が示されなかったが,「教師効力感」においては,得点差が有意(F(2,154)=13.68, p<.01)であった。多重比較の結果,成功体験高群の得点が,成功体験低群と接触経験無し群よりも有意に高いことが分かった。
考   察
 本研究の結果から教育体験活動におけるSNE児との接触経験は,インクルーシブ教育実践の準備性を促すと考えられる。特にSNE児との関わりのなかで成功体験を積むことが有効であると推察できる。また,SNE児との接触における成功体験が,教師効力感の高さに関与していることが示された。この点については,教師効力感の高い学生が,成功を体験しやすい可能性もあり,検証は今後の課題である。
付   記
 科学研究費補助金・基盤研究(C)(No. 25381302,研究代表者 鳥海順子)の補助を受けて実施されました。