日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE60] 雨中人物画に投影されるレジリエンスの検討

投影されるコーピングとの比較を通して

平野真理 (東京家政大学)

キーワード:レジリエンス, 投影法, 描画

目   的
 個人のレジリエンス(心理的回復力,柔軟な適応力)を測定する尺度は数多く開発されているが,そのほとんどが自己評価をもとにした質問紙尺度であり,レジリエンスを高めるという視点からは,本人が自覚できていないレジリエンス特徴も反映できるような幅広い測定方法の開発が求められる。雨中人物画(Draw-A-Person-in-the-Rain-test; Hammer, 1958)は,雨の中の人物を描いてもらうことで,ストレス下の自己イメージや,防衛能力を測定する方法として,特に病院臨床場面で発展してきたテストである。バウムテストのような他の描画テストと比べて知見は少なく,解釈の明確な指標は明らかになっていないが,ストレス状況における自分を投影させる方法として有用であると考えられる。
 そこで本研究では,投影法を用いてより豊かなレジリエンスを測定できる可能性を目指して,雨中人物画の描画特徴とレジリエンスおよびコーピングの関係を調査し,描画に投影されうるレジリエンスを検討することを目的とした。
方   法
1.実施時期 2015年5月および2016年5月
2.対象者と手続き 女子大学生に対して心理学に関する講義授業の中で実施し,その後に研究協力の同意を得られた191名のみを対象とした。
3. 雨中人物画 A4の紙に枠付けをしたものに,「雨の中の1人の人物(88名)」または「雨の中の自分(103名)」を描いてもらうよう指示した。
4. 質問紙 [1]3次元モデルに基づく対処方略尺度(神村他,1995);5段階評定24項目8因子,[2] 二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010);5段階評定21項目7因子を実施した([2]は103名のみ)。
結   果
1. 描画傾向 88.4%の人が,傘等の雨具を描き,濡れていない人物を描いていた。顔を描かなかった人は22.5%,顔や全身が隠れていた人は8.38%であった。表情は無表情が笑顔ほとんどであった。また,教示の違いによる描画特徴の差は少なかったが,「人物」と教示した方が幼い年齢の人物が描かれやすくなることが示された(χ2(2)=24.47, p<.05)(図)。
2. 雨・傘 雨の量を少なく描く人はコーピング得点が高い傾向が示されたのに対し,レジリエンスとの関係では,雨の量が多い人の方が「統御力」が高い傾向が示された(F(2,100)=2.80, p<.10)。また,雨に濡れている人物を描く人の方が「行動力」が高い傾向も示された。(t(14.05)=-1.78, p<.10)傘等の雨具の有無とレジリエンスには関連が見られなかった。
3.人物像 人物の顔を描かない人は「肯定的解釈」コーピングが低かった(t(187)=3.43, p<.05)のに対して,「問題解決志向」レジリエンスが高いことが示された(t(99)=-1.98, p<.05)。また,悲しい表情は「社交性」の高さと(F(5,95)=3.06, p<.05),怒っている表情は「統御力」の低さと(F(5, 95)=2.14, p<.10)関連する傾向が見られた。
考   察
 コーピング尺度との関連ではネガティブな意味を持っていた描画特徴が,レジリエンス要因とはポジティブな関連を示していた。多くの雨(ストレス)にさらされることを想定できることは,ある種のレジリエンスの高さを表し,また,人の顔を描かない人はストレスをポジティブに認知するような対処は苦手である代わりに,具体的に解決を目指そうとするレジリエンスを持つ可能性が推察された。雨の中で悲しさを表出することもまた,対人関係を通したレジリエンスにつながることが示唆された。雨中人物画は,レジリエンス測定においてストレスへの構えあるいは準備性の指標となりうる可能性がうかがえた。

※本研究は科研費15K17291の助成を受けたものである。