The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE66] インクルーシブ教育の実践に対する教員の効力感の検討

工藤浩二 (東京学芸大学)

Keywords:インクルーシブ教育, 教員, 効力感

目   的
 2014年1月の「障害者の権利に関する条約」批准により我が国においてもインクルーシブ教育への取組みが本格的に開始されることとなった。本研究では,そのインクルーシブ教育の実践を担う教員に焦点を当て,「インクルーシブ教育の実践に対する効力感」について教職経験年数との関連及び校種間比較の2点を検討する。
方   法
 調査協力者と調査時期 関東圏の390名の現職教員(小学校157名,中学校105名,高等学校96名,特別支援学校32名)。2015年の8月から12月に実施。
 質問紙 Sharma, Loreman, & Forlin (2012) のTeacher Efficacy for Inclusive Practice (TEIP) Scaleの日本語版であるTEIP-J(Kudo, 2016)を利用。TEIP-Jは,「インクルーシブ学習指導尺度」,「行動マネージング尺度」,「協働尺度」の3下位尺度からなる(各尺度6項目の計18項目,6件法)。
結   果
 教職経験年数との関連 TEIP-Jの各尺度得点について,教職経験年数との関連を調べたところ(Table 1),行動マネージングについては有意な相関はみられなかった。インクルーシブ学習指導,協働及び尺度全体については,弱い正の相関(p<.001)がみられた。
 校種間比較 TEIP-Jの各尺度得点について校種による比較を行った。その結果(Table 2),インクルーシブ学習指導については,特別支援学校教員は,小学校及び高等学校教員よりも高かった。行動マネージングについては,校種による差はなかった。協働については,特別支援学校教員が他の全ての校種の教員よりも高かった。尺度全体(全下位尺度合計得点)としては,特別支援学校教員が小学校及び高等学校教員よりも高かった。ただし,いずれにおいても中くらいの効果量(Cohen,1988)を超えるものではなかった。
考   察
 教職経験年数との関連 TEIP-Jの各尺度得点と教職経験年数との間には実質科学的知見から積極的に意味を見いだせるほどの相関はなかった。これはすなわちインクルーシブ教育の実践について少なくとも効力感という点においては,教職経験に関するベテランも若手もないということを意味している。したがって,このインクルーシブ教育の実践については,「ベテランが若手を育成する」という一般的な図式は成立せず,「ベテランも若手も皆同じスタートラインに立って取り組む」ということが求められるのかもしれない。
 校種間比較 行動マネージング以外については概ね特別支援学校教員が他の校種よりも高い結果となった。インクルーシブ教育の実践に関する課題の主要な原因の1つは,「教育の方向性とそれを実践する枠組みの不一致」(工藤,2016)から生じていると考えられるが,特別支援学校は言うまでもなくこの点において他の校種よりも整備されている。インクルーシブ学習指導及び協働に関しては,この「実践する枠組み」すなわち環境面(人的・物的の両面を含む)の影響が大きいことが示唆される。
 しかし,インクルーシブ教育の実践に対する効力感については,具体的にどのような状況(教育的支援ニーズの内容やその困難さ)の児童生徒への対応を想定するかということも影響すると考えられる。特別支援学校はインクルーシブ教育に関する環境面がより整備されているものの,行動マネージングという側面においてより高度な対応を必要とされるため結果的に行動マネージングについて特別支援学校とその他の校種で差が出なかったものと考えられる。