日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE72] 心の健康プログラムSEL-Short(その2)

Webアプリケーション化に関する基礎的調査

重根美香1, 吉永真理2, 小泉令三3 (1.一般社団法人 子ども安全まちづくりパートナーズ, 2.昭和薬科大学, 3.福岡教育大学)

キーワード:e-learning, 援助希求, ソーシャルサポート

はじめに
 前稿では,心の健康プログラム:SEL-Shortを中学校の授業の中で行った実践から,友達同士の話し合い,練習が内容の理解を助けることが確認できた。抑うつ傾向を示す生徒では,援助希求行動についての理解やスキル定着が有意に低いこともわかり,集団での学習では限界があった。中学の授業の枠組みで行うことは,繰り返しの学習ができない,中学校で取り入れなければ学習ができないという欠点がある。そこでSEL-ShortをWebアプリケーション化し提供する検討を開始した。まず,開発前の基礎的調査として,小学校高学年及び中学生にICT端末の利用,地域や学校・家族との関わり,援助希求行動に関する実態把握を目的とした質問紙調査を行った。
調査の方法
 調査地は首都圏のA中学校区にある3小学校と1中学校であり,小学5〜6年生,中学1〜3年生に質問紙調査を行った(2016年2月)。調査は授業時間内に配布・記入・回収を行った。質問項目は,ICTスキルの状況,相談者がいる施設の利用実態と相談経験,親近者への援助希求の程度,心の健康評価と地域評価である。
結   果
1.ICTスキルの状況
 小中学生共に90%以上がキーボードでの文字入力ができた。また,インターネットの検索サイト利用経験は,小学生で約85%,中学生では約95%である。Webサイトへの書込みは中学生で40%,質問サイトの利用経験は15%にとどまるが,スマートフォン・タブレットの所有率が中学生で50%を超えていた。かつインターネットを常用している割合も60%を超えていることから,中学生はICT端末を利用するサービスへのバリアが低いと思われる。小学生でもICT端末の操作スキルは高いため,保健室等に導入して大人と一緒に使うことでサービスをより効果的に受けられると思われる。
2.援助希求行動と心の健康評価・地域評価との関連
 子どもたちの心の健康度はWHO-5によって測定した。WHO-5の平均得点に援助希求対象者の有無で2群に分けた際に平均値に差があるかt検定で確認した。すると,援助希求行動がある子どもの方が心の健康評価結果は良好であった(表1)。また,援助希求行動がある子どもは地域評価得点も有意に高い傾向が見られ,大人へSOSを発することが出来ることが地域を安全,過ごしやすいと感じることにつながっていることがうかがえた。
3.専門家への援助希求の実態
 2で身近な大人へ援助希求行動ができることが心身の安定に寄与していたが,子どもを支援する専門家への援助希求行動はほとんど行われていない実態が明らかとなった。小・中学生とも最も相談するのはスクールカウンセラー(小学生27%,中学校17%)であった。小学生は児童館や学童のスタッフに相談する割合も10〜20%弱見られたが,中学生は青少年用に設けられた施設の利用も極めて少なく,相談者となる専門家との接触自体が少なかった。
考   察
 小・中学生でもICT端末を使いこなすことができ,Webアプリケーションを活用したe-learningを適用できると考える。特に中学生は地域の居場所の活用自体が少なく,援助希求を行える専門家との接触が少ない。大人への援助希求行動がある児童生徒の方が心の健康評価や地域評価が高いことを踏まえると,困った時に自宅や学校のICT端末からWebアプリケーションを使って援助希求行動への肯定感を与え,場合によって適切な相談者を紹介できるサービスを提供することで,相談の機会が広がる可能性がある。したがって,中学生程度を対象にSEL-ShortのWebアプリケーションによる心の健康プログラムを提供することは早期のSOS発信を助ける可能性が大きいと言える。