The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE76] 心理的適応の高低によって居場所のとらえ方は異なるのか

抑うつのレベルごとの検討

西中華子1, 石本雄真2 (1.神戸大学大学院, 2.鳥取大学)

Keywords:居場所, 居場所づくり, 適応

問題と目的
 近年居場所づくりの実践が数多く行われている。中でも不登校を始めとする不適応状態にある者を対象とした居場所づくりでは,第一に不適応状態に寄り添い,ありのままを受容するような援助を行い,その後さらなる適応感の促進のための援助が段階的になされている(例えば半澤,2004)。一方で学校教員による学級経営としての居場所づくりや文科省の施策に基づいた居場所づくりにおける対象の多くが学校に適応している子どもたちであるが,それらでは,子どもが活躍できる場面の提供やそれを褒めるといった承認や有能感の提供が重要視されている(例えば高地,2010)。このことから,居場所づくりは対象者の適応レベルにより提供すべき内容が異なるのではないかと仮定されるが,このことに関する実証的な知見はほとんど見あたらない。そこで本研究では適応のレベルごとに居場所のとらえ方に違いがあるかどうかについて検討を行い,居場所づくりに関する実証的な知見を得ることを目的とする。
方   法
□調査対象者 兵庫県内の小,中,高校生(有効回答数771名)□調査内容 ◇居場所感項目群 これまでの居場所に関する心理学研究(中西,2000;白井,1998など)で用いられた「居場所感」およびそれに類するものを測定する尺度項目を収集し,測定している内容に基づいて11のカテゴリーに分類を行った(Table 1参照)。その上で,過不足のないようそれぞれのカテゴリーに4項目を設定した。カテゴリーに分類する際には,心理学研究だけではなく一般的に用いられている「居場所」という言葉の用法についても,一般の雑誌等を参考にし,それらが含まれるよう考慮した(計44項目,5件法)。◇居場所項目(居場所直接表現) 「居場所」という言葉を用いて居場所の有無を問う項目。「居場所がないと感じる」と「私には居場所があると思う」の2項目(5件法)。◇抑うつ傾向 Birleson(1981)によって作成されたChildren Depression Self-rating Scale(DSRS-C)の日本語版(村田・清水・森・大島,2009)15項目を用いた(3件法)。
結果と考察
 居場所感項目群について,α係数を参考に5つのカテゴリー(Table 1に☆で示す)では3項目の平均値を得点として用いた。その他のカテゴリーでは4項目の平均値を得点として用いた。DSRS-Cのカットオフポイントを参考に,カットオフポイントを上回る者を抑うつ群,下回る者を非抑うつ群とした。それぞれの群ごとに居場所感項目群の各カテゴリーの平均値と,居場所直接表現の平均値との相関係数を算出した(Table 1)。その結果,抑うつ群に関しては特に「場との一致感」や「他者からの受容」と居場所直接表現との間に高い相関がみられた。一方非抑うつ群においては「居場所がない」感覚と最も高い相関を示したのは「充実・達成感」であり,次いで「場との一致感」という結果であった。また「居場所がある」感覚と最も高い相関を示したのは「成長感」と「本来感」であり,次に「緊張からの解放」,「場との一致感」,「高揚感」という結果であった。これらのことより,不適応状態にある者への居場所づくりとして受容するような関わりを行うことや,既に適応状態にある者への居場所づくりとして活躍できる場を設定したり,楽しいと思える活動を提供することには意義がある可能性が実証されたと言えよう。