日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG19] 発達環境づくりとしての教育実践(2)

教師の価値づけが児童及び学級に及ぼす影響

関原良平1, 有元典文2 (1.横浜国立大学大学院, 2.横浜国立大学)

キーワード:価値づけ, 学級経営, 小学校

問題と目的
 小学校では,教師による「価値づけ」が肯定的な言葉かけの意味合いで日常的に使用されている。
 梅本・矢田(2014)によれば,「価値づけを行う方略が積極的な学習に寄与する」ことが明らかにされている。また,西口(2001)など,教師の言葉かけによる価値づけの研究は多くある。
 一方で,文部科学省(2006)によると,「教育する側が意図する,しないに関わらず,学校生活を営むなかで,児童生徒自らが学びとっていく全ての事柄」として隠れたカリキュラム(hidden curriculum)の存在が提唱されている。
 言葉かけのみではなく教師の態度など,隠れたカリキュラムを含めた教師の価値づけが,児童個人や学級にどのような影響を与えているかについてHolt(1982 大沼訳,1987)などにより,いくつか報告されているが実証的な研究は少ない。
 以上のことから,本研究では価値づけを「自分(達)の言動や行動に対する評価だと児童(達)に受け止められた,言葉や態度を含めた教師の児童に対するふるまい」と定義し,児童同士がやりとりをする場面で,教師が児童の発言を言葉かけや態度で価値づけることによって,個人や学級にどのような変容や影響があるのかを検証することを目的とした。
方   法
 2014年6月,関東圏内の公立小学校1年生1学級27名(男14名,女13名)を対象に2日間にわたって,帰りの会における「良いところ探し」実践を担任教師(筆者)がビデオカメラで撮影した。後日,撮影した内容を筆者が逐語化した。そこから,教師の言葉や態度による肯定的な価値づけがある場面とない場面の事例を抽出し,肯定的な価値づけの有無によってその後の児童の発言や行動の変容を分析した。
 データの取り扱いについては,管理職の指導のもと個人情報に留意した。
結果と考察
 本実践の教師の価値づけを抽出すると,その傾向は,(1)児童が友達の良いところを伝える際の事例の出し方(2)手の上げ方や話の聞き方など姿勢に関することの2つに分類できた。
 (1)では,児童の「全部良かったです。」というような具体的でない発言には,教師の肯定的な価値づけはなく,無反応だった。一方で,「国語の時,背中をピンとしていたのが良かったです。」というような,具体的な場面や様子が入っている発言には「いいね。」や「よく見ていたね。」の言葉や「うんうん。」などの頷く態度で肯定的な価値づけが行われていた(図1参照)。
 初日に「全部良かったです。」と発言し,教師が無反応だった10名の児童の2日目の発言に着目すると,初日と同じく具体的でない発言をした児童は3名だった。その他の7名の児童は,前日よりも具体的な発言内容に変化していた。
 (2)では,教師が学級全体に「ぴんと伸びている手がかっこいいね。」のように価値づけている様子が見られ,教師の価値づけ後の児童は,手がさらに伸びたり,勢いよく手を上げたりしていた。
 以上の事例から,教師が児童の発言や行動を肯定的な態度や言葉で価値づけることにより,児童個人や学級にその価値観が反映され,発言や行動が変わる可能性が示された。また,教師が無反応だった児童の発言がその後,教師に肯定されていた具体的な発言へと変容したことから,無反応という隠れたカリキュラムによる価値づけがされ,児童に影響を及ぼす可能性も示唆された。