The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PG32] 小学生を対象とした防災教育プログラムの開発

災害からこころを守る教育

米山祥平1, 小泉令三2, 竹内康二#3 (1.明星大学大学院, 2.福岡教育大学, 3.明星大学)

Keywords:防災教育, ストレス・マネジメント教育

目   的
 我が国は地震や台風などの自然災害がたびたび発生する国である。そうした災害は,人命に被害を与えるとともに,PTSDなどの形で心理的な被害も与える。また,災害後の生活では被災者同士の助け合い(共助)が重要となる。災害に備えるためには,災害が発生する前の段階から,災害から命を守る方法や,災害後のストレス・マネジメントの方法を身に着け,共助への動機づけを高めておくことが大切であると考えられる。
 災害後のストレス・マネジメントを適切に行うためには,災害後に生じるストレス反応の種類や性質,さらにはストレスの減少に有効なストレス対処法を理解することが重要となる。そこで,小学生を対象に災害後のストレス反応やストレス対処法について学習するためのプログラムを開発するとともに,開発したプログラムを小学校で実施してその有効性を検証した。
方   法
 参加者
 小学校5・6年生229名。
 手続き
 2016年4月に東京都内のA小学校の授業公開日の時間を使用して学習プログラムを実施した。プログラムの実施は各学級の担任が担当し,授業時間1時間(45分間)を使って教室内で行った。
 プログラムは主に,1)災害後のストレス反応についての基礎説明,2)見本合わせ課題,3)ストレス反応の性質についての説明,4)ストレス対処法についての説明という4つの内容から構成された。
 見本合わせ課題 ストレス反応の種類を学習させるために見本合わせ課題を行った。見本刺激としてストレス反応の具体例が書かれたカード(以下,具体例カード)8種類を使用し,比較刺激としてストレス反応の分類の書かれたカード(以下,分類カード)4種類を使用した。課題では,教員が8種類の具体例カードのうち1つを呈示し,児童が4種類の分類カードのなかから1つを選択して回答した。
 ストレス反応の性質についての説明 災害の後にストレス反応が出ても多くの場合は時間とともに消えていくことなどを説明した。
 ストレス対処法についての説明 災害の後に使用できるストレス対処法の種類を説明し,その中の一例として筋弛緩法を練習した。
 質問紙
 豊沢・唐沢・福和(2010)の調査項目を元に適宜修正を加えて恐怖感情,脅威への脆弱性,脅威の深刻さ,自己効力感,反応効果性の5項目を作成し,5件法で回答を求めた。アンケート調査は授業公開日のプログラム実施前と実施後に行った。
結果と考察
 アンケートの全ての質問項目に回答のあった205名(男子116名,女子89名)を標本として,性別×テスト実施時期の2要因の分散分析を行ったところ,恐怖感情において性別の要因に主効果が認められ女子が男子より得点が高くなる結果が示され(F(1,203)=16.195,p<.001),さらに時期の要因にも主効果が認められポストテストの得点がプレテストより高くなる結果が示された(F(1,203)=10.463,p<.005)。また,また,脅威の深刻さにおいて性別の要因の主効果が有意に認められ女子が男子より得点が高くなる結果が示された(F(1,203)=15.143,p<.001)。それ以外の項目では有意差は認められなかった。
 これらの結果から,1)プログラムの実施により恐怖感情が増加すること,2)恐怖感情や脅威の深刻さは女子の方が男子より強く感じていること,3)プログラムの実施による恐怖感情の増加効果に性差は認められないことが示唆されたといえる。恐怖感情の増加は児童から保護者への防災に関する情報の伝達の動機づけを高めることが報告されており(豊沢ら,2010),防災教育による好ましい変化であると考えられる。本プログラムでは災害後のストレス反応の種類の学習に重点を置いたため,ストレス反応のさまざまな具体例を知ることでこの得点が増加した可能性が考えられる。
 本プログラムは全3回の実施を計画しており,今後はストレス対処法に関する内容をより充実させて,自己効力感や反応効果性の増加を目指す予定である。
引用文献
豊沢純子・唐沢かおり・福和伸夫(2010).小学生に対する防災教育が保護者の防災行動に及ぼす影響――子どもの感情や認知の変化に注目して―― 教育心理学研究,58,480-490.