The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PG33] 特別支援学級における数概念の拡張を目指した算数科の指導

大きな数から小数・分数へ

大西理加 (吹田市立山手小学校)

Keywords:算数科, 特別支援, 数の概念

問題と目的
 本研究は,特別支援学級での算数科,特に数概念の獲得の過程を明らかにすることを主眼においた5年間に渡る縦断的な実践研究である。
 大西(2014)は,ヴィゴツキーの「回り道」の概念に着目し,大きな数の筆算の学習において独自の方法で課題を解決していた対象児が,学習内容を習熟するに従って,一般的な解法を用いるようになる,すなわち「回り道」を使わなくなる姿を確認した。
 そこで,整数(特に大きな数)の概念を獲得した対象児は,小数や分数の学習を進めていく過程において,「回り道」をすることなく既有の概念を新しい数の概念の獲得に結びつけていくと仮定した。しかし,栗山(1991)は,既有知識が,新しい概念を習得する際の妨害効果となることについて検討の余地があることを示唆している。
 本研究は,これら2つの視点を考慮しながら数の概念の獲得の過程を明らかにしていくことを目的とする。
方   法
(1)対象:特別支援学級に在籍する小学6年生の男児1名。
(2)手続き:2015年10月,11月。0.1より小さい数について学ぶ「小数のしくみを調べよう」(新しい算数4上,東京書籍2011)の単元の中の「1小数の表し方」,「2小数のしくみ」を中心に,主に教科書に沿って学習を進め,実践・観察を行った。
(3)分析方法:教科書と男児のノートをもとに思考の過程を明らかにし,数の概念の獲得の道筋について考察をした。
結果と考察
 最初に「0.1Lの1/10が,0.01L」であることを学習し,次に「0.05L,0.09L,0.1Lは,それぞれ0.01Lを何こ集めたかさか」という課題に取り組んだ。対象児は,0.05Lと0.09Lについては正しく答えられたが,0.1Lは不正解だった。
 次に,「水がいっぱい入った1Lますと0.1Lますが1つずつ,4めもり目まで水が入った0.1Lますが1つ」という絵を見て水のかさを答える問いでは,「1L0.14L」という答えが返ってきた。そこで,1と0.14の1の位はどこかに注目するよう助言すると,正答にたどりつくことができた。
 これら2つの事例から「0.01のいくつ分」という考え方はできていても,繰り上がることの難しさが伺える。しかし,いくつか課題を考えていくうちに,対象児から「繰り上がってる」というつぶやきが聞かれた。小数の世界でも,整数の時と同じように10のまとまりで「繰り上がる」ということを対象児が感得した瞬間だったと思われる。ここでは,時間はかかったが既有の概念を新しい概念の獲得に結びつけることができていた。
 小数も10のまとまりで繰り上がることは理解できたが,与えられた小数を10倍するという課題をかけ算と結びつけて解いていくことは難しかった。通常学級の指導では,小数の10倍,100倍といった課題は「小数点を移動する」ことで解決するようになっていくのだが,対象児には「回り道」を通って,「10倍ということは,×10すなわち同じ数字を10回足す」という説明で理解を求め,答えにたどりついた。対象児にとっては,「小数点が移動する」という思考は,実感をともなって理解することが難しかったようである。大西(2014)の小数点の移動の指導について,検証する必要がある。加えて,この事例が既有知識の新しい概念習得の妨害と言えるかということについても,慎重に検討したい。
 上記の他,以下の課題が難しかったことを付け加えておく。
 ・空位が入る課題
 ・異なる位を持つ小数の大小関係
ま と め
 「小数のしくみを調べよう」の学習は,難しい課題もあったが,概ね順調に課題を解いていくことができた。そして,ここでは報告することができなかったが,後に「分数をくわしくしらべよう」の単元で,真分数や帯分数,同値分数,同分母のたし算・ひき算も学習をして,小学校を卒業した。
 大きな数から始まり,小数や分数の概念をする過程をそばで見守る中で,「新たな概念を獲得しているという表現よりも,対象児は自分の数の概念を拡張しているという表現の方がふさわしいのではないか」と考えるようになった。
 研究に快く協力して下さった男児とご家族に感謝致します。