The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PG39] 自己調整学習のデュアルプロセス

作文課題のフィードバックに対する反応に着目して

福富隆志 (慶應義塾大学大学院)

Keywords:自己調整学習, デュアルプロセス, フィードバック

問題と目的
 本研究は,自己調整学習を「目標達成のために,経験を認知し,能動的に行動を変容させる過程」と定義し,そのプロセスを2種類に分類することを目的とする。一般的な目標追求に関する研究では,そのプロセスを2つに分けた理論が複数存在する(例えば,Higgins,1997; Higgins,Kruglanski,Pierro,2003; 及川,2013)が,自己調整学習の研究ではこうした試みは少ない。しかし,目標追求のプロセスが異なれば,それに伴って学習のプロセスも異なるはずであり,さらに必要な教育的介入も異なるはずである。したがって,本研究では,上記の試みの一つとして,課題に対するフィードバック(以下,FB)への反応が,目標追求の方略使用の個人差である制御焦点特性によってどのように異なるのかを検討する。
方   法
参加者 青森県内の短期大学生90名(女性85名,男性5名)。参加者は,後述の利得接近志向から損失回避志向を引いた平均値がなるべく等しくなるように,肯定FB群30名,改善FB群30名,両FB群30名に分けられた。
課題 「あなたの長所は何ですか?具体的な経験を挙げて教えてください」というテーマで文章を書く課題を実施した。課題は2回行ったが,どちらもテーマは同じである。
手続き 実験は集団で,2回に分けて実施された。1回目は,全ての参加者が同じ条件の下で,課題を行った。2回目は,最初に,課題に対するコメントを書いた紙を渡した後に,2回目の課題を実施した。ただし,コメントの内容は群ごとに異なっていた。すなわち,肯定FB群の参加者には,作文の「良かったところ」を2つ書いて渡した。改善FB群の参加者には,作文の「直した方がよいところ」を2つ書いて渡した。両FB群の参加者には,上記の2種類のコメントを,それぞれ1つずつ書いて渡した。
制御焦点特性 尾崎・唐沢(2011)のPPFS邦訳版を使用した。下位尺度は,(1) 利得接近志向:肯定的な結果や成功などへの関心,(2) 損失回避志向:否定的な結果や失敗などへの関心,である。
従属変数 (1) コメントへの関心:コメントを重要視したり活用しようとしたりする態度,(2) 不安:課題遂行中の不安,(3) 直感的方略:自由に,直感的に文章を書く行動,(4) 省察的方略:内容をじっくり考えたり,前に書いた作文を見直したりする行動,(5) コメント活用:コメントの内容を実際に作文に活かせたかどうか,(6) 文字数。(1)~(5)は質問紙による自己報告である。
結   果
 重回帰分析の結果,損失回避志向とFB群の交互作用が,不安,省察的方略,コメント活用に対して影響を及ぼしていた。すなわち,損失回避志向の高い人は,低い人よりも,肯定を含むFB(肯定FBと両FB)を受けた場合の不安や省察的方略が高く(F(1,82)=4.27,p<.05; F(1,82)=3.96,p<.05),両FBを受けた場合の省察的方略とコメント活用が高かった(F(1,82)=7.82,p<.01; F(1,83)=4.57,p<.05)。
 一方,利得接近志向は,コメントへの関心に対して正の影響を及ぼし(t(84)=2.02,p<.05),文字数に対して負の影響を及ぼしていた(t(83)=-2.68,p<.01)。また,利得接近志向とFB群の交互作用が,文字数に対して影響を及ぼしていた。すなわち,利得接近志向の高い人は,低い人よりも,改善FBを受けた場合の文字数が少なく(F(1,82)=6.18,p<.05),両FBを受けた場合の文字数が多かった(F(1,82)=14.74,p<.01)。
考   察
 損失回避志向の高い人は,FBに肯定的な内容が含まれても不安を保つ一方で,肯定点と改善点を同時に示されるときに最もコメントを活用し,省察的な方略を使用した。このことから,自己調整学習の1つのタイプとして,一歩ずつ進歩を確かめながら,さらに進歩するために情報を活用するプロセスがあることが見出される。
 それに対して,利得接近志向の高い人は,FBの内容を重視し,文字数にも一定の影響を及ぼしていたが,それ以外の指標とは関連が見られなかった。利得や成功に注意が向けられている状態では,当人が非意識的に情報処理を行うことが多いため(Csikszentmihalyi,1990),自己報告による差が出なかったのかもしれない。しかし1つの仮説として,情報をヒューリスティックに解釈し,活用する非意識的な自己調整学習プロセスがあることが考えられる。
 今後は,作文のパフォーマンスや内容分析を通して,こうした2つの自己調整学習プロセスを,非意識過程も含めてモデル化していく必要があるだろう。