一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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認定医審査ポスター3

2023年6月16日(金) 12:00 〜 13:30 ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-15] 脳梗塞後遺症と義歯に起因した廃用が考えられた顎口腔機能不全と嚥下障害に対応した症例

○池田 菜緒1、西 恭宏1 (1. 鹿児島大学口腔顎顔面補綴学分野)

【緒言・目的】
 脳血管障害は要介護原因第二位の疾患であり,口腔機能にも後遺障害を生じ¹⁾,義歯の不適合や不使用は口腔機能の廃用にもつながると考えられる。今回,脳梗塞既往を有する超高齢患者に対し,治療用義歯を用いた義歯への順応ならびに食事姿勢などの環境的アプローチを行うことで咀嚼,嚥下障害の改善を認めた1例を経験したので報告する。

【症例および経過】
 91歳,女性。2008年頃に脳梗塞を発症し,右不全麻痺がある独居の超高齢者である。他院にて,抜歯により上下顎全部床義歯を製作し,調整を繰り返すも疼痛が消失せず義歯を使用しなくなったため,家族の意向で当院を受診した。不使用となった義歯は床形態,粘膜面適合,人工歯排列が不適切であり,さらに,以前の義歯もあまり使用していなかったという家族の情報から顎口腔機能への影響も考えられたため,治療用義歯を製作し,咬合高径と床形態を修正しつつ義歯への順応を図った。むせやすさに対しては咬合高径を低位に修正することで改善し,最終義歯を装着した。しかし,装着後において,食事時にたまにむせがみられるとの情報が家族からあったため,家族の協力を得ながら食事姿勢等の食支援を行うことで対応した。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。

【考察】
 咬合高径を低く設定することになったのは,加齢ならびに廃用による機能低下,あるいは高次脳機能障害の影響に対する代償的対応になったと考えられる。また,義歯の長期不使用も顎口腔系の機能的な運動を損なう原因であったと考えられたため,治療用義歯を用いて患者に適切な状態を検討したことが使用可能な義歯の装着につながったと思われる。患者の年齢,全身と口腔の機能を考慮すると,今後も摂食嚥下機能の評価を含めた食支援が必要であると考えられ,オンライン診療や居住地域での訪問歯科診療医への連携の必要があると思われる。

(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)

文献
1)古屋 純一:脳卒中と口腔機能,日補綴会誌,12:309~315,2020.