The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスター6

Fri. Jun 16, 2023 12:00 PM - 1:30 PM ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-31] 多系統萎縮症患者に対して在宅で看取るまで食を通して支援した症例

○長澤 祐季1、中川 量晴1 (1. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【緒言・目的】患者とその家族の心理は,時間の経過とともに変化する。今回,多系統萎縮症患者に対して看取りまで支援し,患者家族の食に対する苦悩を緩和できた1 例を経験したので報告する。
【症例および経過】70歳,女性。うつ病の既往。初診時、舌の攣縮と構音障害を認め,進行性神経疾患が疑われたが確定診断はなかった。体重35kg,BMI17.8。経口摂取状況はFOISレベル5,抑うつ傾向を認めエンシュアで必要カロリーを補っていた。患者家族の心理状況を把握するため,「患者の家族の食に関する苦悩の調査票-短縮版」(以下,調査票)を代替として用いたところ,初診時キーパーソンである娘の調査票スコアは43(最大49点,高いほど苦悩が大きい)だった。座位保持不良であり液体でむせを認めたが,訪問STと協議し姿勢調節を行うことで改善した。その後体重が急激に減少(29kg,BMI13.1) ,FOISレベルも4に低下し一時的な代替栄養の提案を行なった。本人からは強い拒否があり,娘は母の意思を尊重したいと考えていた。しかし代替栄養の手段を理解した娘の調査票スコアはやや改善(スコア39)した。翌年1月,多系統萎縮症の確定診断に至り,3月に肺炎での入院を機にFOISレベルは1へ低下した。その後もSTとともに間接訓練を継続しながら再度胃瘻造設を推奨した結果,7月に胃瘻造設可否精査目的で入院することとなった。この時点での娘の調査票スコアは24であり,食に対する苦悩は初診時の半分程度に減少していた。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】本症例で患者の娘は,自宅での看取りを望む母の希望に添いたいという思いがあったが,徐々に母を救うことができる手立てが他にあるのではないかという思いが芽生え始め、両者の間で大きく揺れていた。このような家族に対して摂食嚥下や栄養学的な医学情報を丁寧に提供することは,家族の食に対する苦悩を緩和することにつながる。限りある時間の中で歯科医師として看取り患者および家族に寄り添い、意思決定に沿う支援の一助となることはできたのではないかと考える。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)