一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

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摂食機能療法専門歯科医師審査ポスター

2023年6月16日(金) 14:30 〜 16:30 ポスター会場 (1階 G3)

[摂食審査P-3] 複数回にわたる窒息既往の高齢者が摂食嚥下リハビリテーションおよび多職種連携により, 安全に経口摂取可能となった一例

○原 良子1 (1. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【緒言・目的】 複数回の窒息経験のある患者に対し多職種連携により安全な経口摂取が可能となった1例を経験したので報告する。 【症例および経過】 93 歳, 女性。大腿骨骨折, 高血圧の既往あり。現病歴はアルツハイマー型認知症, 過活動膀胱, 不眠症。過去に4回食物による窒息をおこし,訪問医によるトロミの付与と, 看護師による定期的な状況確認がされていた。2022年6月嚥下困難による評価を目的に家族より訪問依頼を受けた。要介護2, 口腔内は義歯により両側の咬合支持あり。BMI19.9(kg/m2), 嚥下評価スクリーニングはRSST1回, MWST4点で最長発声時間は8秒であった。舌の可動域は良好であったが, 舌圧は平均20.5kPaであり, 口腔乾燥の訴えがあった。食形態は軟飯, 軟菜, 一口大, 刻みでムセは認められなかったが, 次々と多量に自食しており注意障害が認められた。嚥下内視鏡検査では安静時には喉頭蓋谷と梨状窩に唾液の貯留が認められ, 食物摂取時には食塊形成不良で, 嚥下反射は遅延し, 喉頭蓋谷および梨状窩に多量の残留が認められた。さらに咽頭感覚が不良で刺激による咳反射も認められなかった。窒息予防の対応を早急に行い, 最終的に咽頭期改善を目標とした。窒息の原因は認知症による先行期・準備期・咽頭期に起因すると思われ, 先行期に対し小さい食具を選択して一口量を減らし, 声掛けにより食事ペースに配慮した。また準備期改善のため看護師と共に咀嚼訓練を行い, 食形態はペースト食に変更し, 咽頭への送り込み量を調節して窒息リスクを減らした。さらに咳嗽反射強化のため看護師に発声訓練を依頼し, 最長発声時間は14秒と改善した。また口腔乾燥や咽頭感覚不良は内服薬の影響も考えられ, 訪問医と相談中である。そして指導内容は看護師およびケアマネジャーにフィードバックした。その結果, 全粥・刻み食での経口摂取が可能となり, 窒息なく経過している。 尚, 本報告の発表について患者本人と家族から文書による同意を得ている。 【考察】 全身状態は比較的良好であったが, 認知機能や口腔機能低下, 咽頭感覚不良による窒息のリスクがあった。食形態, 食事ペース, 一口量などの調整と訓練実施により安全に自食可能となった。今後, 服薬調整により咽頭期の改善も期待されるが, 認知機能の進行と共に嚥下機能低下も予測され, 病期に対応した多職種連携が必要と思われる。
(COI開示:なし)(倫理審査対象外)