一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

講演情報

優秀ポスターコンペティション

優秀ポスターコンペティション » 一般部門

優秀ポスター賞コンペティション
一般部門

2023年6月16日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (1階 G3)

[優秀P一般-5] 歯周病原菌誤嚥とCOPD増悪との関連–F. nucleatumはマウス肺のバリア形成機能を阻害する–

○髙橋 佑和1,2、今井 健一2、飯沼 利光1 (1. 日本大学歯学部 歯科補綴学第Ⅰ講座、2. 日本大学歯学部 感染症免疫学講座)

【目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれる疾患の総称で,一昨年世界の死因第3位となった。高齢者に多くみられるが,わが国では診断・治療を受けているのはごく一部で,500万人以上の潜在患者がいると推定されている。また,COPDは肺の生活習慣病とも呼ばれており,誤嚥性肺炎,糖尿病,肺癌など多くの病気の進行にも深く関与している。近年,歯周病がCOPDの増悪因子であることが欧米のみならずわが国でも報告された。しかし,歯周病がどのようにCOPDの増悪に関与しているのかは不明である。COPDが進行すると気管支や肺胞上皮のバリア機能が破壊されるため,細菌やウイルスの侵入による炎症が惹起される。また,COPD増悪患者の喀痰では歯周病原菌Fusobacterium nucleatum(F.n)の抗体価が増加することも報告されている。そこで今回,F.nが呼吸器のバリア機能を破壊するのでないかと推察し実験を行った。
【方法】
トランスウェルプレートで気管支上皮細胞を培養しF.nを添加後,経上皮電気抵抗値(TER)の測定と,蛍光標識デキストラン用いて細胞間隙径路の評価を行う事によりバリア機能を評価した。また,バリア形成に関わる17種の遺伝子発現に対する影響を検討するとともに,マウスにF.nを誤嚥させた後,肺におけるバリア破壊も調べた。
【結果と考察】
F.nは時間及び濃度依存的に気管支上皮細胞におけるTER値を低下させたことから,F.nによりバリア形成が阻害されていることが推察された。実際に,上皮細胞のデキストラン透過性も促進されバリアが破壊されていることが確認できた。また,F.n誤嚥マウスにおいても血清中にデキストランが検知された事から,肺胞のバリア破壊が起こっていることが示唆された。バリア破壊のメカニズムを検討した結果,F.nによりClaudin1やZO2などのバリア形成に係る遺伝子の発現が低下することが,気管支上皮細胞のみならずマウス肺においても認められた。
以上の結果から,歯周病原菌は呼吸器上皮のバリア形成の破壊を引き起こし,細菌やウイルスなどの感染を惹起することによりCOPDの増悪に関与していることが示唆された。また本結果は,歯周病治療や口腔健康管理が,COPDの予防に有効であることの根拠の一端とも考えられる。(COI開示:なし)(倫理承認番号AP18DEN031-3)