The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(口演発表)

一般演題(口演発表) » [一般口演6] 教育/オーラルフレイル・口腔機能低下症

一般口演6
教育/オーラルフレイル・口腔機能低下症

Sun. Jun 18, 2023 2:10 PM - 3:20 PM 第3会場 (3階 G304)

座長:
服部 佳功(東北大学 大学院歯学研究科 リハビリテーション歯学講座 加齢歯科学分野)
渡邊 裕(北海道大学大学院歯学研究院口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室)

[O6-3] マウスモデルを用いたアルツハイマー病に伴う口腔機能低下症の解析システムの開発

○倉本 恵梨子1、後藤 哲哉1 (1. 鹿児島大学)

【目的】  
超高齢化社会を迎え, フレイルの発見と予防の重要性が増している。口腔機能低下症は, 認知機能や身体機能の低下を伴う口腔機能の低下と定義され, 新たなフレイル表現型として5年前に保険収載された。口腔機能低下症は, 特にアルツハイマー病 (AD) との関連で注目されている。しかし, ADに関連する口腔機能低下の病態メカニズムは不明なままである。本研究では, 咀嚼に重要な三叉神経中脳路核 (Vmes) がAD病理により影響を受け, その結果, 咀嚼機能が低下していると仮説を立て, これを検討した。
【方法】  
生後3-4ヶ月, 雄性のADモデルマウス (3×Tg-AD) と非トランスジェニックマウス (NonTg) を対象に解析を行った。免疫組織化学的解析によりVmesにおけるAD病理の有無を調べ, また, マウスの食物咀嚼時の咬合力を調べるため, 咬筋の筋電図と咬合力の同時記録による新しいCLEF (correlative electromyography and force myography) 解析法を開発した。
【結果と考察】  
免疫組織化学的解析により3×Tg-ADのVmesにアミロイドβの沈着とタウのリン酸化が確認された。さらに3×Tg-ADの三叉神経運動核ではVmesニューロン由来の小胞型グルタミン酸トランスポーター1免疫陽性の軸索終末がNonTgに比べて有意に減少していた。VmesにおけるAD病態が咀嚼機能に影響を及ぼすかどうかを調べるため, 摂食時の咬筋の筋電図を解析した。3×Tg-ADはNonTgに比べて有意な咀嚼リズムの遅延を示した。咬筋の筋活動が咬合力と高い相関を示すことを利用したCLEF解析により, 筋活動から咬合力を正確に推定することができた。ヒマワリの種を咀嚼時の3×Tg-ADの推定咬合力はNonTgよりも有意に小さかった。しかし, 咬筋重量や筋線維断面積には両群間に差がなく, 3×Tg-ADで観察された咬合力低下や咀嚼リズム遅延は, 咬筋の異常によるものではないことが示唆された。以上より, 3×Tg-ADで観察された咀嚼機能の低下はVmesのAD病理に起因する可能性が高いことがわかった。3-4ヶ月齢の3×Tg-ADでは, 神経細胞の機能障害があるものの老人斑はみられず, 行動実験ではまだ認知機能の低下が明確ではないため, ヒトの軽度認知機能障害期 (MCI) に相当すると考えられる。つまりヒトMCIでも咀嚼機能の低下が生じることを示唆する。このように, ADモデルマウスを用いた新たな咀嚼機能の定量的解析により, 口腔機能低下症の病態を包括的に理解することが可能となった。
(COI 開示:なし)
(鹿児島大学 動物実験委員会承認番号 D20007)