日本地球惑星科学連合2015年大会

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セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 生物地球化学

2015年5月27日(水) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

18:15 〜 19:30

[MIS26-P08] 高齢スギ・ヒノキ人工林の伐採・更新施業にともなう窒素流出の長期変化

*浦川 梨恵子1戸田 浩人2小田 智基1大手 信人3 (1.東京大学大学院農学生命科学研究科、2.東京農工大学大学院農学研究院、3.京都大学大学院情報学研究科)

キーワード:長期モニタリング, 森林流域, 更新施業, 窒素流出, 林木の養分吸収

伐採施業は、森林生態系における窒素動態に最大のインパクトを与える施業であり、数多くの研究例がある(例えば、Likens et al. 1970)。一方、伐採影響の大きさや、影響の及ぶ期間は研究ごとに異なっており、対象流域の位置する立地要因や施業方法、管理履歴が影響していると考えられている(Oda et al. 2013)。渓流からの窒素流出に影響を及ぼす要因には、主に3つあり、降水からの窒素流入、林木の窒素吸収、そして土壌中での窒素無機化・硝化過程が挙げられる。伐採の窒素流出に対する量的・時間的な影響の大きさを解明するためには、この3つの過程を個別に調査することが有効であると考えられる。
わが国は、国土の2/3が森林であり、そのうちの約4割が人工林である(林野庁 2013)。戦後、大規模に造林された人工林が現在、主伐期にさしかかっているが、1970年以降の木材需要の減少により、国内の木材生産量が急激に低下したことで、人工林が伐採・植栽されず、今後、高齢林が増加していく見込みである(林野庁 2013)。主要造林樹種であるスギは高齢化にともない、樹木生長が衰えるので養分吸収量が低下する(大畠 1996)。一方、土壌中の高い窒素無機化・硝化速度は維持される(小柳ら 2004)ので、根圏下での窒素現存量が増加し、最終的に窒素流亡が増加する。よって、長伐期施業にともなって人工林流域からの窒素流出量が増加することが懸念される。
首都近郊には、汚染大気の流入によって、降水からの窒素流入量が多く、結果として渓流からの窒素流出が増加する窒素飽和現象のみられる流域が存在する(Ohrui and Mitchell 1997)。近年は、大陸からの越境汚染物の流入量が増加しており(環境省 2014)、窒素飽和地域が拡大することが懸念されている。森林の持つ水質浄化機能を保全するためにも、効率的に人工林を更新し、養分吸収を保っていくことが必要である。
本研究は、人工林の伐採・更新施業にともなう窒素動態の変化を明らかにすることを目的として、窒素飽和現象が発現していた高齢林の斜面下部を部分伐採し、上記の3つの過程の長期変動を調査した。
調査地は、群馬県みどり市の東京農工大学農学部附属フィールドミュージアム大谷山内のスギ・ヒノキ人工林小流域である。面積は1.8 haであり、斜面下部~中部にスギ、上部にヒノキが植栽されている。2000年11月に斜面下部を伐採し、翌春にスギを再植林した。スギ更新地の林齢は現在15年生、斜面中・上部のスギ・ヒノキ林は、107年生である。
この流域では長期にわたって降水・渓流水の水文水質モニタリングが行われている。降水による窒素流入量、および渓流からの窒素流出量は、Urakawa et al. (2012)より算出した。伐採前の高齢林の窒素吸収量は小柳ら(2004)より引用した。スギ幼齢木の生長にともなう窒素吸収量は、2014年に毎木調査を行い、推定した。土壌中の窒素無機化・硝化量は、現地培養法により伐採前後で断続的に調査していた値より推定した。
渓流からの窒素流出量は、伐採前は10-15 kgN/ha/yだったが、伐採後11年間は15-20 kgN/ha/yまで増加し、近年は10 kgN/ha/yまで減少した。降水からの窒素流入量は、9-13 kgN/ha/yで長期的な変化傾向はみられなかった。土壌中での年間の窒素無機化・硝化量は、伐採後4年間は伐採前の約2倍に増加したが、その後は伐採前と同程度の水準に戻った。更新木の生長は、伐採10年目から急激に増加しており、渓流水硝酸濃度の近年の著しい低下は、樹木生長にともなう窒素吸収増加のためと考えられた。
高齢化やN流入量増加が原因と思われる窒素飽和現象は、斜面下部の部分伐採・更新施業により、やがて健全な状態に回復することが本試験によって明らかになった。

引用文献
環境省 2014, 越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(平成20~24年度) pp. 238.
Likens et al. 1970, Ecol. Monogr. 40: 23-47.
小柳ら 2004, 日林誌 86: 134-143.
Oda et al. 2013, AGU Fall Meeting, H11D-1178.
大畠 1996, 森林生態学 pp. 84-114.
Ohrui and Mitchell 1997, Ecol. Appl. 7: 391-401.
林野庁 2013, 平成24年度 森林・林業白書 pp. 226.
Urakawa et al. 2012, Ecol. Res. 27: 245.