日本地球惑星科学連合2015年大会

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[U-07] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2015年5月28日(木) 11:00 〜 12:45 103 (1F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

11:30 〜 11:45

[U07-08] 地震の揺れの直前予測:緊急地震速報の現状と今後の展望

*干場 充之1 (1.気象研究所)

キーワード:緊急地震速報, 地震動即時予測, 東北地方太平洋沖地震, 今後の展望

地震の揺れの直前予測(地震動即時予測)は,大きく揺れる前に警報を発することで,地震防災/減災に貢献することを狙ったものである.この地震動即時予測は,世界各地で研究が行われており,1990年代の初めから,メキシコではメキシコシティの一般住民に対して,また,わが国でも鉄道分野で応用されている.気象庁では 2007年から緊急地震速報として,全国を対象に一般向けの情報発信を開始した.本発表では,まず,地震動即時予測の原理を説明し,次に,2007年からのレビュー,東北地方太平洋沖地震時のパフォーマンス,そして,今後の展望について紹介する.
 地震動即時予測の原理は大きく分けて3つに分類される.つまり,(1)揺れの伝播を予測,(2)P波からS波を予測,(3)地震の破壊を予測,の3つである.このうち,(3)に関しては,否定的な意見も多い.現在の緊急地震速報では,(3)を用いずに,(1)と(2)の考え方を併用し,震源位置とマグニチュードの即時決定により行われている.
 2007年10月からの緊急地震速報の運用開始から(東北地震直前の)2011年2月までに,計17回の警報を発している.ただし,このうちの1回は,ソフトウェアのバグによって生じた誤報である.この期間は,いわば黎明期であり,緊急地震速報そのものを社会に認知してもらうことが重要であったと言えよう.
 東北地震では,東北地方には想定通りの速さで警報を発し,所定の効果を発揮したと言えよう.しかし,関東地方では,震度4を予測したものの実際には震度6強で揺れるところもあり,過小予測であった.これは,広い震源域への対応が必ずしも十分でなかったからである.一方,本震後2~3週間の間,過大な警報を発することが相次いだ.これは,広域に同時に発生した複数の余震を,1つの大きな地震として誤認したためである.大きな課題が残ったが,この地震(とその余震)を契機に,緊急地震速報は地震防災/減災の大きなツールと認識されるようになった.
 東北地震以降,上記2つの課題,つまり,広い震源域,および,同時多発地震,への対応が重要な技術開発のテーマとなった.“震源域の即時推定”や“同時多発でも正確な震源やMの決定”を目指す研究が多い中,震源決定やM推定を行わずに,“揺れのリアルタイム観測から未来の揺れを直接予測する”という考えが,わが国を中心に広まっている.「現時点の波動場をリアルタイムで把握し,それを初期値として,波動伝播の物理に則り未来を予測する」,というもので,気象の数値予報の考え方と似ている.この方法では,震源とMを決定する必要がないため,震源域の拡がりや複数の地震が同時に発生した場合でも,単発の小地震の場合と同じ処理で予測が行われる.また,揺れの予測と実況値を常に比較し,予測が補正されていくので,正確な揺れの予測につながると期待される.
 気象庁では,H27年度に更新される処理装置において,揺れのリアルタイム観測による方法の簡易版(PLUM法)の試験を行い,5年以内をめどに改善を図っていく予定である.