日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT24] 化学合成生態系の進化をめぐって

2015年5月24日(日) 11:00 〜 12:45 202 (2F)

コンビーナ:*ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、延原 尊美(静岡大学教育学部理科教育講座地学教室)、間嶋 隆一(国立大学法人横浜国立大学教育人間科学部)、座長:ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域自然システム学系)

12:36 〜 12:39

[BPT24-P03] 水温が化学合成生物群集の分布に与える影響

ポスター講演3分口頭発表枠

*渡部 裕美1矢萩 拓也2長井 裕季子1徐 美恵2小島 茂明2石橋 純一郎3山本 啓之1藤倉 克則1御手洗 哲司4豊福 高志1 (1.海洋研究開発機構、2.東京大学大気海洋研究所、3.九州大学、4.沖縄科学技術大学院大学)

キーワード:熱水噴出域, オハラエビ類, 飼育実験

水温は、海洋生物の分布や生活史特性を特徴づける環境因子のひとつである。深海熱水噴出域は海洋環境の中でも幅広い水温環境を示すことから、水温が生物の分布や生態に与える影響を解明するのに適した環境である。本講演では、主に飼育実験の結果に基づき、深海熱水噴出環境において水温が生物の分布に与える影響について議論する。
 水温が生物に与える影響を検討するために、沖縄トラフの深海熱水噴出域に生息する2種のオハラエビ類、熱水噴出孔近傍に分布するエンセイオハラエビ(Shinkaicaris leurokolos)と熱水縁辺域に分布するオハラエビ(Alvinocaris longirostris)の受精卵および浮遊幼生を5-30℃の環境下で200-280日間飼育した。受精卵の孵化までにかかる時間は、両種とも既往研究と同様に水温が上がれば上がるほど短くなったものの、孵化至適水温(本研究では孵化率が50%よりも高い場合とした)はエンセイオハラエビの方がオハラエビよりも高かった。したがって、抱卵期間はエンセイオハラエビの方がオハラエビ短くなるものと予想される。オハラエビ類の多くには繁殖の季節性は観察されていないため、抱卵期間が短いことは繁殖回数が多いことにつながる。これらの観察結果は、エンセイオハラエビでオハラエビよりも高い遺伝的多様性が観察されていること(Yahagi et al. submitted)とよく一致している。孵化幼生の生育に適した水温も、飼育実験の結果からは孵化至適水温同様エンセイオハラエビの方がオハラエビよりも高いと考えられる。これらのオハラエビ類が分布する沖縄トラフの熱水噴出域のうち、水深が浅い環境では海底の水温が比較的高温となることから、オハラエビの幼生の正常な成長が困難であると予想される。また、浮遊幼生の生育至適水温からは、エンセイオハラエビは表層流を利用した分散が可能であり、沖縄トラフ以外の海域にも分布することが予想されるが、これまでに沖縄トラフ以外の熱水噴出域からエンセイオハラエビの分布は報告されていない。
 この飼育実験では、水温が2種のオハラエビ類の分布や生活史をコントロールする主要な環境因子であることを示すことができた。水温が生物の代謝速度に影響を与えることは広く知られている。また、上記飼育実験の他にも水温が化学合成生物群集の生態に影響を与える例が知られている。このような知見を蓄積することによって、化石化学合成生物群集においても水温を推定することにより、生態についての推測が可能となるかもしれない。