日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS23] 海洋生態系モデリング

2015年5月24日(日) 18:15 〜 19:30 コンベンションホール (2F)

コンビーナ:*伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)

18:15 〜 19:30

[AOS23-P01] 海洋低次生態系モデル開発に資する植物プランクトン群集別光合成量子収率の衛星データ解析

*平田 貴文1 (1.北海道大学大学院地球環境科学研究院)

キーワード:植物プランクトン, 衛星, 光合成量子収率

海洋生態系モデルは、時空間的に局所性が伴う現場海洋観測で得られる生物学的・生態学的知見(例えば、生物量分布など)を時空間的に内外挿する効果を有し、現場観測では得難い総観的解析を可能にする。また、生態系モデルは、各生物分類群に対する数々の生理作用と外部環境間での相互作用や生物分類群間の相互作用の結果を出力する。このような生態系モデルの実行には、数々の生理・生態作用を規定するパラメータ値を予め決定しておく必要がある。一般にパラメータ値は固定値とされることが多いが、現実には時空間的に変動することが考えられ、結果としてモデル結果の不確実性の原因の一つとなっていると考えられる。そこで本研究では、より良い海洋生態系のパラメタリゼーションのために、地球観測衛星より得られた海色データを利用して、時空間的に密な生物関連パラメータの時空間分布を明らかにし、その衛星データセットを作成することを目的とする。本研究では、生物関連パラメータとして、とりわけ海洋生態系内の基礎生産者である珪藻・ハプト藻・藍藻の光合成量子収率を対象とする。光合成量子収率は、モデル内で植物プランクトンの光制限を規定する要素の一つである光合成-光曲線の初期勾配パラメータと密接に関係している。本研究で対象とする海域は、黒潮本流・続流・準定常jetを含む日本周辺海域で、対象期間は1998年から2007年の10年間とした。利用する衛星データは、NASA SeaWiFSより観測された海色データを基に算出された、a) 植物プランクトン全群集の基礎生産速度 (Behrenfeld et al., 2005)、b) 植物プランクトン群集別クロロフィル-a (Hirata et al., 2011) ならびに、c) 植物プラクトン全群集光吸収係数 (Smyth et al. 2006)であり、空間解像度は約9kmである。全群集の基礎生産速度と群集別クロロフィル-aは全球現場データセットを用いて経験的に導かれている一方、全群集光吸収係数は、インバージョンモデルを用いて導出した。植物プランクトン群集別光合成量子収率の算出には、アルゴリズムの設計上の問題である入力データの自由度の向上のために、リモートセンシングの分野で通常行われているグリッド毎の演算とは異なる方法を採用した:すなわち、本研究では、対象海域内に複数グリッド(本研究では、5x5グリッド)からなる多数の小領域を設定し、各小領域内の衛星データの全てを入力値として用いて、各小領域に対して群集別光合成量子収率を出力する方法である。このようにして得られる群集別光合成量子収率の空間解像度は、入力データの解像度の1/5となるが、世界初となる群集別光合成量子収率の時系列衛星データの取得が可能となる。この方法で算出された植物プランクトン群集別の光合成量子収率をみると、珪藻の光合成量子収率では黒潮以北と以南で明確な違いが見られ、ほぼ通年、珪藻生物量の分布に対応していた。一方、ハプト藻の光合成量子収率はハプト藻生物量の分布との明確な対応が見られる時期(主に、5?10月)と見られない時期(11月?4月)があった。藍藻の光合成量子収率は、通年、ほぼ藍藻生物量と対応していなかった。また、光合成量子収率と光合成有効放射と間での時間変動の関係をみると、珪藻では黒潮および続流域以外の日本近海で負の相関がえられた。ハプト藻では黒潮および続流以南で負の相関が見られた。藍藻では特に強い負の相関が見られた。このように、光合成量子収率は群集間、季節、海域で変動することが示された。光合成量子収率は、一次生産者の光制限を規定する上で重要なパラメータであるが、これまで植物プランクトン群集別の光合成量子収率の総観的な時空間変化は明らかになっていなかった。植物プランクトン群集構造を多様に表現する生態系モデルが増加する中で、本研究の成果は、植物プランクトンの群集構造を明示的に表現する生態系モデルにとって、群集別パラメータ設定のための重要なデータ資源となり、モデル結果の不確実性の軽減へ貢献すると期待される。