日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2015年5月25日(月) 11:00 〜 12:45 201A (2F)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、座長:片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

12:15 〜 12:30

[SCG60-06] 浅部ウェッジマントルの蛇紋岩の再考 ーブルース石の重要性ー

*河原 弘和1遠藤 俊祐2ウォリス サイモン1永冶 方敬1森 宏2山本 鋼志1淺原 良浩1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.産業技術総合研究所)

キーワード:ブルース石, アンチゴライト, ウェッジマントル, 蛇紋岩, 沈み込み帯

ウェッジマントル内の加水・脱水反応に伴う流体の挙動は,沈み込み帯の様々な現象において重要な役割を果たしている.かんらん岩 + H2O系における,重要な加水・脱水反応として,次のものが上げられる.
antigorite (Atg) = olivine (Ol) + orthopyroxene (Opx) + H2O (1)
Atg + brucite (Brc) = Ol + H2O (2)
Atgの単独脱水分解反応プロセス(反応1)の天然の例は詳しく研究されている(e.g. Padron-Navarta et al., 2011)が,Atg + Brcの脱水反応プロセス(反応2)に着目した先行研究は非常に少ない.より低温で起こるBrcの形成・分解反応(反応2)は,浅部ウェッジマントル内でのH2O収支を考える上で重要である.また,OlがH2O流体と反応し分解するとき,流体のSiO2 activityが高いとBrcは生成されず,次の反応によりAtgのみが形成される.
Ol + SiO2 aq + H2O = Atg (3)
つまりBrcは,岩体中にSiO2に富む流体がどの程度浸透したかを推定するための指標となり得る.加えて,BrcはAtgやOlと比べて変形しやすい性質があるので,剪断帯を発達させるなどウェッジマントルの物性にも影響を与えることが予想される.したがって,ウェッジマントル内で起きる様々な現象を検討する上で,蛇紋岩に含まれるBrcの存在量,組織などの情報は不可欠である.しかし,SiO2に富むスラブ流体や初生的なOpx周囲のhigh SiO2 activityによってBrcの生成が阻害されていると考えられてきた(e.g. O'Hanley, 1996)ため,浅部ウェッジマントルにおけるBrcの重要性はこれまで十分認識されていなかった.
 沈み込み型変成帯である三波川帯にはウェッジマントル起源の岩体が数多く点在している(Aoya et al., 2013).本研究ではそれらのうち,低変成度部(深度30 km相当)に位置する数kmスケールの白髪岩体に注目した.同岩体はダナイト起源の変成蛇紋岩体で,反応2で形成された変成Olを含む(Kunugiza, 1980).本研究では,同岩体の野外調査による地質図作成と計111試料の薄片観察を行った.その結果,岩体広範にBrcが分布することがわかった.ただし,岩体東部境界から約100 mの幅を持つ領域はAtgのみからなる蛇紋岩が分布している.また,Brcは組織観察および組成累帯構造により,変成ピーク(Ol+AtgまたはOl + Brc安定領域)以前から存在するもの(Brc I)と,後退変成時のもの(Brc II)に識別できる.Brc Iは変成Olの包有物または粗粒結晶からなる脈として産し,Atgとは変成Olによって隔てられている.Brc IIはAtgと直接接し,脈として産する.Brc IはMgt離溶ラメラを大量に含む褐色のコアと無色のリムからなる累帯構造を示す.離溶前のBrc組成を復元すると,Brc IはコアからリムにかけてMg# (= Mg / (Mg + Fe))が上昇するのに対し,Brc IIでは減少する.また変成Olもコアからリムに向かってMg#が増加する累帯構造を示す.Feを含む系では反応2は連続反応となり,観察されるBrc Iと変成Olの組成変化は温度上昇期に,Brc IIの組成変化は温度下降期に形成されたことを示す.以上の組織観察,鉱物組成変化と全岩組成分析をもとにFeを含む系でシュードセクション解析を行い,変成ピーク以前のBrcの存在量を見積もったところ,Si metasomatismの顕著でないところでは最大20 vol% 程度となった.このような著量のBrcが浅部ウェッジマントルに存在するのであれば,その物性に大きな影響を与えると考えてよいだろう.

引用文献:Aoya, M. et al. (2013) Geology, 41, 451-454; Kunugiza, K. (1980) J. Jpn. Assoc. Min. Petrol. Econ. Geol, 75, 14-20; O'Hanley, D. S. (1996) Oxford University Press, New York, 277pp; Padron-Navarta, J. A. et al. (2011) J. Petrol, 52, 2047-2078.