日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BC 生物地球化学

[B-BC03] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 201A (2F)

コンビーナ:掛川 武(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、横山 正(広島大学大学院総合科学研究科)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、白石 史人(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、座長:横山 正福士 圭介

13:45 〜 14:00

[BBC03-01] 熱水性カイレイツノナシオハラエビの鰓室内に見られる黒色および茶色沈殿物の化学種解析

*彦坂 柾成1高橋 嘉夫2チェン チョン3ジェンキンズ ロバート1 (1.金沢大学、2.東京大学、3.海洋研究開発機構)

キーワード:深海熱水噴出孔、カイレイツノナシオハラエビ、バイオミネラリゼーション、XAFS

大西洋中央海嶺(MAR),中央インド洋海嶺(CIR),カリブ海ミッドケイマンライズの多くの熱水生態系に優占する熱水性のツノナシオハラエビ属は,膨らんだ鰓室の内部空間に数種のバクテリアを共生させており,栄養のほとんどを共生バクテリアに依存しているとされている.この共生バクテリアの代謝に起因してか,鰓室内組織表面は鉄を主成分とする茶色,もしくは黒色の沈殿物に覆われている.これら沈殿物は脱皮によって取り去られるが,脱皮後数日経過すると再び沈殿物によって覆われることになる.ツノナシオハラエビはバクテリアに栄養面では依存しつつも,バクテリア由来の沈殿物は宿主の遊泳や栄養摂取を阻害するように思われ,ツノナシオハラエビ-バクテリア間では一般的な相利共生関係とはまた異なる関係が築かれているように思われる.この共生関係を正しく理解するには,宿主,外部共生バクテリア,そして沈殿物の関係性を明らかにする必要がある.本研究では,XAFS法を用いてCIRに生息するカイレイツノナシオハラエビの鰓室内の茶色,および黒色沈殿物の化学種解析を行い,鰓室内化学環境を明らかとすることを目的とした.
 試料はCIRで実施された研究航海YK16-E02の6K1457, 6K1458潜航において,EdmondフィールドおよびKaireiフィールドから採取されたカイレイツノナシオハラエビを用いた.前処理として,組織を99.5%エタノールで固定後,エポキシ樹脂(Epofix, Struers)に包埋し,厚さ約50 µmの両面研磨薄片を作成した.両面研磨薄片はKEK PF BL-4Aにてµ-XRF元素マッピング,およびFe K-edge XANES測定を行い,バクテリア周辺での元素分布,および鉄の化学状態を調べた.鉱物種および鉄の化学状態は,試料から得られたXANESスペクトルを,解析ソフトREX2000(Rigaku)を用いて各種標準試料(ferrihydrite, goethite, magnetite, FePO4, pyrite, pyrrhotite)とフィッティングを行うことで推定した.
 走査型電子顕微鏡(JSM-6100, JEOL)による凍結乾燥試料の観察および偏光顕微鏡による薄片試料の観察から,茶色沈殿物は厚さ50 µm程度のクラストを形成し,鰓蓋内側全体を被覆する産状,黒色沈殿物は糸状菌周囲の有機膜状組織にサブミクロンサイズの微小粒子として沈殿する産状が観察された.XANESのフィッティングから,茶色沈殿物はferrihydrite, goethite, FePO4,黒色沈殿物はferrihydrite, goethite, FePO4,pyrrhotiteを含むと推定され,鉄は茶色沈殿物中ではFe3+,黒色沈殿物中ではFe2+, Fe3+として存在することが明らかとなった.茶色沈殿物は好気環境,黒色沈殿物は比較的嫌気環境で形成されたものと推定される.本研究から,同種間における鰓室内環境の多様性が示された.今後鰓室の微生物叢の解析を進めていき,それぞれの鉱物の沈殿条件,宿主の生育可能環境について詳細に検討していく必要がある.