日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG36] 地球環境科学と人工知能

2019年5月30日(木) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:冨田 智彦(熊本大学大学院 先端科学研究部)、福井 健一(大阪大学)、松岡 大祐(海洋研究開発機構)、小野 智司(鹿児島大学)

[ACG36-P05] 短期気象予測における降水量ガイダンスへの深層学習の活用に関する検討

*倉上 健1相馬 一義1宮本 崇1古屋 貴彦1馬籠 純1石平 博1 (1.山梨大学)

キーワード:短期気象予測、機械学習、深層学習、数値気象モデル、降水量ガイダンス

1.はじめに
数値気象モデルは数時間から1日程度の降水短期予測においては非常に有効であり,近年精力的に改良がなされている.しかし,どれほど精緻な数値気象モデルを用いても降水量の予測誤差を完全になくすことはできず,気象庁ではガイダンスと呼ばれる機械学習手法により数値気象モデルの出力を補完して予報に活用している.しかし,近年ビッグデータ処理等の分野で発展の目覚ましい深層学習の技術はいまだガイダンスに活用できていない.ガイダンスに深層学習の技術を導入することで,これまで活用しきれなかった膨大な数値気象モデル出力をより有効に活用した降水短期予測ができる可能性がある.そこで本研究では深層学習を用いて数値気象モデル出力を補正し,降水量を予測する降水量ガイダンス手法を構築する.

2.手法
本研究では深層学習モデルとして,畳み込みニューラルネットワークを用いる.畳み込みニューラルネットワークは人間の視神経を模して,パターンを認識するフィルタとして機能する畳み込み層と,パターンの空間的なずれを吸収する役割を持つプーリング層を組み合わせて構成される.
本研究では畳み込みニューラルネットワークに加えてデータ拡張及びデータ選別を取り入れた深層学習モデルを構築した.
データ拡張については,1組の訓練データ(160×160メッシュ)から40×40メッシュのウィンドウを8メッシュずつずらしてデータを切り出し,256組の訓練データを生成した.データ選別については,40×40メッシュのウィンドウ内で0.1mmの降水が見られるメッシュが,予報実験結果・観測値ともに3割を超える組のみを訓練に用いた.
本研究で設定する問題は連続的な入力データ(数値気象モデルによって予測された変数)を連続的な出力データ(気象庁解析雨量による降水量分布観測値)へ変換する回帰問題に分類されるため,損失関数としては二乗誤差和を用いる.また,本研究では出力層の活性化関数として0以下の値を0とみなすことができるRectified Linear Unit (ReLU:正規化線形関数)を採用する.
本研究では詳細な都市活動を考慮した気象シミュレーションが可能な数値気象モデルCReSiBUC (雲解像モデルCReSSと陸面過程モデルSiBUCを結合したモデル) による降水短期予測実験結果を用いる.深層学習モデルの入力データとしては,降水短期予測実験結果(2001年8月1日から2001年8月31日までの1時間ごと,空間解像度2kmで京阪神地方を中心とする160×160メッシュ)の内,地上鉛直風速出力を用いる.
本研究では深層学習モデルを用いた数値気象モデルの出力補正を行うため,深層学習モデルの出力は入力データと同時刻・同一メッシュにおける降水量分布とする.深層学習モデルの訓練に際しては,同時刻・同一メッシュに最近隣法を用いて内挿した気象庁解析雨量に基づく観測値を目標出力として使用する.

3.結果
 深層学習モデルを構築し学習を行ったところ,学習過程ではエポックが進むにつれて二乗誤差和が減少し,効率よく学習が進んでいることがわかった.次に,構築した深層学習モデルへ検証用データを入力し,深層学習モデルによる補正前後の降水量2次元分布について,気象庁解析雨量と比較した.
まず,台風11号に伴う降水が見られた2001年8月21日1時に関して検討したところ,深層学習モデルによって補正された降水量分布が観測値に近づくことがわかった.次に上空の寒気の影響による局地的な降水が見られた2001年8月6日14時について検討したところ,深層学習モデルにより降水量が平滑化される傾向があり,降水域の位置ずれを補正しきれていないことがわかった.

4.結論
本研究では,深層学習を用いて数値気象モデル出力を補正し,降水量を予測する降水量ガイダンス手法を構築した.気象庁解析雨量との比較により,空間スケールの大きな降水の事例では深層学習導入の有効性が示唆された.しかしながら局地的な降水の事例では降水域の位置ずれを補正しきれておらず,さらなる改良が必要と考えられる.