日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM04] 地形

2019年5月29日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:八反地 剛(筑波大学生命環境系)、瀬戸 真之(福島大学うつくしま福島未来支援センター)

[HGM04-P08] 多摩川・荒川上流河谷における,最終氷期以降の支流の土砂供給様式の時空間変化

*高橋 尚志1須貝 俊彦1 (1.東京大学大学院新領域創成科学研究科)

キーワード:河成段丘、土石流、山地河川、土砂動態システム

山地から低地までの長期的な土砂動態システムを明らかにする上で,河川上流域における支流から本流への土砂移動過程とその時空間変化の評価は重要である.島津(1990; 1991)は,東北日本の山地河川において現河床礫を調査し,土石流停止勾配(80‰)を超える急勾配の支流が頻繁に流入する本流区間では,土石流により粗粒な礫が供給され,礫径のばらつきが大きくなること,80‰以下の支流が主に流入する区間では本流河川による選択運搬が卓越することを指摘した.しかし,支流から本流への土砂供給様式の長期的な時間変化を検討した事例は少ない.北海道および東北~中部日本の諸河川上流域では,最終氷期に河谷が埋積された結果,堆積段丘が発達している.関東山地を流れる多摩川・荒川上流河谷に発達する最終氷期の堆積段丘の多くは,支流性のToe-cut terraceである(Takahashi and Sugai, 2018など).最終氷期の支流性段丘面の河谷横断方向への勾配(Sg)は,最終氷期の支流の河床勾配を示すと考えられ,これと現支流河床勾配(Sp)を比較することで,最終氷期以降の支流の河床勾配変化を推定できる.本報告では,多摩川・荒川上流河谷においてSpとSgを比較し,80‰を閾値として,最終氷期以降の支流の土砂供給様式の時空間変化について検討する.
多摩川・荒川上流域の同一支流では,SgよりSpが大きく,後氷期の本流の下刻に伴い,支流の侵食基準面高度が低下し,支流が急勾配化したことを示す.80‰を閾値として,支流を3タイプ(Type-A~C)に分類した.Type-Aは,Sg,Sp>80‰,最終氷期以降土石流により本流河谷へ土砂を供給してきた支流である.Type-Bは,Sg≦80‰,Sp>80‰,最終氷期に掃流,現在は土石流により土砂を供給する支流である.Type-Cは,Sg,Sp≦80‰,最終氷期以降掃流により土砂を供給してきた支流である.支流Typeに基づき,多摩川・荒川上流河谷を3つのセグメントタイプ(Seg. A~Seg. C)に分類した.Seg. Aは,Type-A支流が卓越する区間で,多摩川上流の軍畑より上流と,荒川の源流域に出現する.Seg. Bは,Type-B支流が卓越する区間で,多摩川の軍畑―青梅間と,荒川の秩父盆地上流部および狭窄部に出現する.Seg. Cは,Type-C支流が卓越する区間で,荒川の秩父盆地下流部および狭窄部に出現する.
多摩川,荒川ともに,Seg. Aは上流に限られ,最終氷期には,これより下流では本流のふるい分けが卓越していた可能性がある.Seg. Cが,荒川の秩父盆地下流部で出現することは,新第三系の丘陵に端を発する支流が流入するためと考えられる.荒川狭窄部は,新第三系に挟まれた変成岩が露出する区間であり,岩石制約によって河谷幅が狭くなることで,急勾配な支流が流入すると考えられる.Sp,Sgは,支流の集水域起伏比(Rr)と正の相関関係にある.Sp,Sg,Rrは,多摩川上流河谷では下流(東)へ減少する.荒川上流河谷では,これらの値が源流域(三峰口より上流)から秩父盆地(三峰口~皆野)にかけて減少し,狭窄部(皆野~寄居)で再び増加する.全体として下流へSp,Sg,Rrが減少する傾向は,関東山地の山稜が東へ低下する傾向を反映していると考えられる.本流の河床高度変化に応答した,支流から本流への河床勾配および土砂供給様式の変化は,上流河谷全体で一様ではなく,基盤の岩質や山地の起伏分布の影響を受けている可能性が示唆される.