日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2019年5月28日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:田阪 美樹(島根大学)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻)

[SCG54-P06] 流体包有物の残留圧力の鉱物種・サイズ依存性を利用した地質圧力計の開発

*萩原 雄貴1山本 順司1 (1.北海道大学)

キーワード:流体包有物、ラマン分光法、地質圧力計、マントル捕獲岩

マントル捕獲岩の由来深度やマグマの上昇過程を推定するために,流体包有物の残留圧力は有益な情報源である (Levresse et al. 2016; Oglialoro et al. 2017).本手法は鉱物種を選ばないため,鉱物の組成を用いた従来の地質温度圧力計が使えない岩石にも適用可能である.更に,周囲の温度や圧力変化への応答が早いため,短い時間スケールの現象を追跡可能である.残留圧力の鉱物種依存性 (Yamamoto et al. 2008) やサイズ依存性 (Campione 2018) の存在が指摘されているが,その地球科学的意義についてよく分かっていない.そこで本研究ではマントル捕獲岩中の様々なサイズや鉱物種中の流体包有物の残留圧力をラマン分光分析により測定し,地質温度計・地質圧力計・上昇速度計としての利用可能性を議論する.

Campione (2018) によると,流体包有物は小さいほど流体圧の保持能力が高いため,流体包有物の残留圧力を利用した岩石の由来深度推定のためにはサブミクロン程度の径を持つ流体包有物が最も信頼できる.しかし,流体が相変化する温度から残留圧力を推定する従来の手法 (マイクロサーモメトリー) では通常5 µm以下の流体包有物の残留圧力の測定は困難である (Hurai et al. 2015).そこで近年,CO2のラマンスペクトルの2つの大きなピーク (ν1–2ν2 fermi resonance) の波数差 (Δ) が圧力に敏感であることを利用し,pure CO2に利用可能な圧力計の改良開発が進んでいる (e.g. Hagiwara et al. 2018) .しかし,ΔはH2OとCO2の相互作用の影響を受ける可能性があるため,圧力計の確立にはCO2のラマンスペクトルへのH2Oの影響を厳密に調べる必要がある.現に,CO2–N2系やCO2–CH4系では組成や圧力に依存してスペクトルのエリアやピーク位置が大きく変わることが指摘されている (Seitz et al. 1996; Lamadrid et al. 2018) .そこで,著者らは本手法をマントル捕獲岩の流体包有物に普遍的な組成であるH2O–CO2系へ拡張可能であることを実験的に確認し,マントル捕獲岩中のサブミクロン程度~10 µmの流体包有物の残留圧力の測定を行った.流体の測定には励起光として半導体レーザー (532 nm),対物レンズ×50 (LUPlan; Nikon; N.A=0.9),グレーティングは 1800 本/mm,検出器として 1650×200 ピクセル (16 µm角) の CCD 素子を用いた.また,流体包有物の形状の測定はデジタル顕微鏡 (VHX-5000; Keyence Co.) の対物レンズ2000× (VH-ZST; Keyence Co.) を利用した.流体包有物の輪郭は輝度のコントラスト差を利用して自動的に測定を行った.

 測定結果から,流体包有物の残留圧力は流体包有物の径に依存して系統的に変化し,流体包有物の径が小さいほど高圧を保持していることが分かった.更に,流体包有物が小さいほど高圧である傾向は同じだが,鉱物種によって保持する残留圧力の絶対値が異なることも分かった.これらのデータに基づき,流体包有物の残留圧力のバリエーションがもたらされる原因について議論する.