日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 地球惑星科学のアウトリーチ

2019年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 103 (1F)

コンビーナ:植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:大木 聖子

10:15 〜 10:30

[G02-06] ゴーストフォレストが語る広域地殻変動と巨大津波痕跡群-アウトリーチ活動と防災教育の重要性-

★招待講演

*重野 聖之1七山 太2,6渡辺 和明2石井 正之3石渡 一人4猪熊 樹人5深津 恵太7 (1.明治コンサルタント株式会社、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所地質情報研究部門 、3.石井技術士事務所、4.別海町郷土資料館、5.根室市歴史と自然の資料館、6.熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター 、7.野付半島ネイチャーセンター)

キーワード:アウトリーチ活動、防災教育、津波堆積物、広域地殻変動、超巨大地震

北海道東部千島海溝の地域では超巨大地震によって生じた海岸地形や津波堆積物を身近に観察することができるが,これまで地元住民にはあまり関心を持たれてこなかった.2018年9月3〜4日に,これら超巨大地震によって形成されたと推定されている地質現象に焦点をあてた,地元住民も参加できる地質巡検を日本地質学会第125 年学術大会(札幌大会)関連行事として企画実施したので,その概要を報告する.

1.超巨大津波痕跡群と完新世テフラを調べる
 道東太平洋沿岸域は,千島海溝に面する本邦屈指の地震津波の多発地帯である.過去50年間を振り返って見ても, M8クラスの巨大地震が数10年おきに発生しており,その都度多大な被害をもたらしてきた.根室市西端のガッカラ浜地域の小規模な沿岸湿原の断面には泥炭層が波食されて露出しており,ここには過去4000年間の津波を記録している.今回の巡検では,この露頭において6層の完新世テフラと12層の津波堆積物を観察して頂いた.ここでは露頭を観察することにより“いつ津波が襲ってきたのか?”,そして“その津波がどのくらいの大きさだったのか?”を想像していただいた.このうち,巡検後半の分岐砂嘴の形成史の議論に関連する上位から3層準については,AMS14C年代値およびテフラ層序に基づき, Ta-aとKo-c2に覆われるNS1が17世紀, NS2は12/13世紀,B-Tmに覆われるNS3は9世紀に発生した超巨大津波痕跡と考えられることについて,詳しく解説した.

2.ゴーストフォレストが語る測地学的および地質学的観測結果が示す矛盾を調べる
 根室半島の北側に位置する根室海峡に面する風蓮湖と野付湾には,我が国には珍しい,現在も活動的なバリアーシステムが認められている.今回の巡検で訪れた風蓮湖周辺や野付半島のトドワラ,ナ ラワラ周辺は近年の1 cm/yrに達する急激な地盤沈下により,湖岸に近接する森林では海水の影響によって立ち枯れ(白骨林化)が顕著になり,地元では“ゴーストフォレスト”と呼ばれている(渡辺ほか,2011).これら沈んでいる砂嘴は地盤沈下によってその面積は年々縮小している.しかし,竜神崎には2 mを越える浜堤が2列存在し,テフラと14C年代から,17世紀と12/13世紀に隆起して離水した証拠が見つかっている.ここでは17世紀に離水した浜堤を実際に掘って,参加者に確認して頂いた.このことは,地元住民がこれまで信じていた“近い将来,野付半島が水没して無くなる!”ということは全くあり得ず,逆に“地震による地殻変動の影響をちゃんと考えるべきである!”と解説した.

3.アウトリーチ活動と防災教育
 今回の巡検で,我々は地元にある地形や地層を教材として,未来の災害をおおよそ予測できることを学んでいただいた.また,我々は津波堆積物の剥ぎ取り標本を地元博物館等に贈呈する啓蒙活動を長年にわたって行って来ており,今後もこれらを地震津波への備えや防災・減災教育に役立てて頂くことを希望している.