日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG30] 内陸地震と原子力発電所の安全性

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 104 (1F)

コンビーナ:末次 大輔(海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、寿楽 浩太(東京電機大学工学部人間科学系列)、座長:末次 大輔寿楽 浩太

15:45 〜 16:00

[HCG30-02] 原発の安全規制における活断層評価の課題

*鈴木 康弘1 (1.名古屋大学)

キーワード:原子力発電所、活断層、原子力規制

1. 活断層過小評価の是正

 原発の安全審査において活断層の過小評価が起きてきた背景には様々な要因がある。原子力規制委員会発足後の新規制基準の制定によってある程度改善しているが(拙著*)、課題も多い。本発表では、安全規制における活断層評価の課題を変動地形学の立場から論じる。

 そもそも、①「活断層がある」→②「地震動および地表変形を評価して設計する」もしくは③「避ける」、というのが重要構造物建設の際の原則である。③の「避ける」に関して、かつての審査指針に関連記載がなかった。新規制基準は、「将来活動する可能性のある断層等」の露頭の上への設置は許さず、既存原発にも遡及した。これには反対意見もあり、「避ける」の運用については今後も議論されて良い。ただしその場合、十分な説明と社会的な合意が求められる。①「活断層認定」と②「地震動と変位の予測」についても科学的課題が多い。

2.活断層認定の課題

 かつては活断層の地震は「実際には起こらない地震」という扱いだったが、1995年阪神・淡路大震災により「低頻度大規模災害」として見直され、さらに2011年の福島第一原発事故の発生により、実際に起こることを前提とした議論が必須となった。

 こうした状況においては、2006年の耐震審査指針が規定する「耐震設計上考慮する断層」の概念を遵守することが大前提となった。それは「後期更新世以降の活動の可能性が否定できないもの」である。「可能性の否定」は困難だとして批判もあるが、それは活断層調査法を理解していないことによる誤解である。地質学的証拠から断層の活動時期を検討する方法論は1980年代以降のトレンチ調査において確立している。definite/probable/possibleの3段階で評価することが一般的で、断層で変位した地層とそれを覆う地層の関係が明快であれば判断は容易である。しかし断層変位が上方に向かって漸減する場合や断層活動の間接的な現象(例えば崩落堆積物や液状化)から考察する場合にはdefiniteな判断はできない。

 規制委員会による敦賀原発の敷地内断層調査はまさにこの問題に直面した。2012/11/27事前会合、12/1~2現地調査以後、5回の評価会合(2012/12/10、2013/1/28、3/8、4/24、5/15)により評価書が纏められた。その後、事業者の追加調査結果が提示され、2014/1/20-21の現地調査以後、5回の追加調査評価会合(4/14、6/21、8/27、9/4、11/19)およびピアレビュー会合(12/10)も行われた。議論の争点はdefiniteか否かであった。この間の2013/5/21と2014/6/16に事業者は研究者も交えて記者発表を行ったが、その内容には事実誤認が含まれた。今後も注意すべきは、①probableやpossibleのデータ数が増えてもdefiniteにはなり得ないということ、②解釈による「否定」(正断層は活断層ではない、seismogenicなもの以外は活断層ではないなど)は認められない、すなわち推論は評価に耐えないということである。

3.地震動と変位の予測-経験的予測と不確実性-

 震源断層の形状から地震の規模や地震動の大きさを予測する研究は高度化した。さらにスリップレート(平均変位速度)の分布から断層挙動を推測する研究も進められた(鈴木ほか,2010など)。これにより「平均的な予測」は充実している。しかし、平均からの「ばらつき」や断層近傍における「最大値」を予測できる精度は乏しい。

 観測事実が少ないことも原因の一つである。熊本地震などで多地点のデータが得られ、経験式も高度化したかに見えるが、あくまで一地震の例である。地形地質調査により解明される累積値やスリップレートから、一回の地震を微分的に推測することは困難を極める。

 2014年長野県神城断層地震では3m変位すると予測されてきたのに1m程度しかずれなかった。2004年中越地震では50cmずれた地点の一回前の変位は2mだった。2016年熊本地震で布田川-日奈久断層の一部は前震と本震で二度ずれた。市街地で新たに確認された活断層は、今回は例外的に小さなずれであった可能性も指摘されている。右ずれが主体にも関わらず左ずれも生じた。布田川-日奈久断層以外の小規模な地震断層が局地的な強震動を生じた例や、地震断層沿いでも強く揺れなかった場合もあった。このような不規則性を考慮すると、経験式から「ばらつき」を考慮した「最大値」を経験的に評価することは困難であると言わざるを得ない。
*「原発と活断層」(岩波書店)、“Active Faults and Nuclear Regulation in Japan” -Background to Requirement Enforcement(編集中)