日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE17] 再生可能エネルギー分野への活用に向けた地球科学データの可能性

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 301B (3F)

コンビーナ:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター)、宇野 史睦(産業技術総合研究所)、島田 照久(弘前大学大学院理工学研究科)、野原 大輔(電力中央研究所)、座長:大竹 秀明(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

15:30 〜 15:55

[HRE17-01] 地中熱利用での地球科学データの活用 ーとくに有効熱伝導率についてー

★招待講演

*笹田 政克1 (1.地中熱利用促進協会)

キーワード:地中熱ヒートポンプ、有効熱伝導率、熱応答試験

地表から200mくらいまでの深さにある熱エネルギーを地中熱と呼んでいる。地中の温度は年間通してほぼ一定であるので、冬と夏に地上と地中との間に10℃を超える温度差が生じる。この温度差を活用して地中の熱エネルギーをヒートポンプにより生活に必要な温度範囲のエネルギーに変換すると、冷暖房、給湯などが効率的にできる。地中熱ヒートポンプは、一般に使用されている空気を熱源にしたヒートポンプ(エアコン)に比べて省エネ性が高く、温室効果ガスの削減効果が大きい。また、夏季の冷房廃熱が大気中に放出されないため、大都市圏で顕著なヒートアイランド現象の抑制効果がある。
 地中熱ヒートポンプシステムを住宅・建築物に導入する場合、熱源の評価が必要となる。建物の熱負荷に応じて、暖房時には地中から採熱され、冷房時には地中に放熱される。建物が立地する場所の地層の熱物性の違いで、採放熱時の地中での熱拡散が異なるので、地中熱ヒートポンプシステムの設計においては、それらの熱物性のデータが必要となる。とりわけ重要な値が有効熱伝導率である。
 有効熱伝導率については、空気調和衛生工学便覧に収録された代表的な地質ユニットのデータが活用されているが、地中熱利用が増えてきている現状において、日本列島における地質の多様性を考慮するなら、より多くの地質データに基づく検討が必要な時期にきている。一方、現地での熱応答試験により求めた有効熱伝導率の実測値については、地中熱利用促進協会がまとめたデータが活用されており、地質データとの対応が示されていないが、地中熱利用が行われている主として市街地に分布する地層の有効熱伝導率を表しているものといえる。
 2016年から地中熱ヒートポンプシステムの省エネ基準による評価が可能になり、現時点では非住宅建築物でクローズドループを用いた場合の年間一次エネルギー消費量の値が、それぞれの建物種別ごとに、また気象条件の異なる地域ごとにWebプログラムにより計算できる。その際に地層の有効熱伝導率の値の入力が必要であり、入力にあたっては3つの方法が選択できる。
 一番望ましい方法は、熱応答試験で求めた現地の有効熱伝導率を用いる方法であるが、熱応答試験が実施されていない場合は、現地での地盤調査のボーリングデータに基づき計算された値(地質データに上記便覧の文献値を対応させる)を用いることもでき、また、それもできない場合は、有効熱伝導率のデフォルト値として1.2W/mKを入力することになっている。
 熱応答試験による有効熱伝導率の算出が望ましいことは言うまでもないが、その品質の確保も必要であり、建築確認申請をする際には測定装置については地中熱利用促進協会の装置認定を受けたものであることを示す書類の提出が義務付けられている。
 このように地層の有効熱伝導率のデータが、省エネ基準による一次エネルギー消費量の計算に活用されてきているが、熱応答試験を行わないケースがほとんどとなる住宅や小規模建築物においては、それぞれの地域の地質特性に応じて、参照できる文献値としての有効熱伝導率のデータの整備が必要であり、設計者が利用できるデータベースがあると普及に役立つ。近年、主に都道府県単位で整備が進められている地中熱ポテンシャルマップは、その要請に応えるものであるが、マップを作成するための基礎データである有効熱伝導率の実測値がまだ少ないのが現状である。