日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT22] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、井上 敬資(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

[HTT22-P01] 地中レーダー,電気探査の統合物理探査による後生掛地熱地域大湯沼周辺における浅部地下構造イメージング

*井上 雄介1筒井 智樹1坂中 伸也1 (1.秋田大学国際資源学研究科)

キーワード:地中レーダー、速度スペクトル、比抵抗

後生掛地熱地域は秋田焼山,八幡平火山群といった活動的火山に囲まれる地域で,温泉湧出,高温湯沼,泥火山群などの活発な地熱現象が観察できる遊歩道が整備されている.この遊歩道で2016年秋に新たな泥火山噴出により一部の歩道が破損し,通行止めの区間を生じた.この事例を受けて,観光客の安全を守るためには遊歩道直下の詳細な地下構造の解明が必要であり,地球物理学的手法による地下構造探査は有効な手段として期待される.
 後生掛地熱地域周辺で行われた地球物理学的地下構造探査の先行研究例では,与良・伊藤 (1974)によって行われた北八幡平地域の重力探査,磁気探査,電気探査,地震探査や,内田・光畑 (1995)によって行われた空中電磁探査,MT探査,電気探査がある.しかし,これらの先行研究では広域的な探査であり,遊歩道直下の浅部地下構造イメージングを目的とした研究は行われていない.そこで本研究では,遊歩道直下の深さ10 m程度までの電磁気学的な構造を解明するために地中レーダー探査と電気探査の統合物理探査を行った.
 地中レーダー探査では全長172 mの測線を展開した.装置はGSSI社製SIR-3000を使用し,100 MHz, 270 MHz, 400 MHz, 900 MHzの4種類のアンテナを使用した.測定には送受信アンテナ間隔を一定にするプロファイル測定によって観測を行った.電気探査では電極間隔は4 m, 使用電極は48 本として全長188 mの測線を展開した.装置はIRIS社製SYSCAL Proを使用した.電極配列はダイポール・ダイポール法を用いた.
 地中レーダー探査のデータ解析は,時間ゼロ補正,バックグラウンド除去処理,帯域通過フィルター処理(BPF処理),自己相関,予測デコンボリューション,速度解析,深度変換を行った.4種類のアンテナによる反射記録に対してBPF処理を行い得られた時間断面から,往復走時75~100 nsの間に明瞭な反射面群が現われた.ここで明瞭な反射面群が現われた領域をブロック1~ブロック4に分類した.この反射面群は特に270 MHzアンテナによる波形記録で明瞭であったため,270 MHzの結果で分類した各ブロック別に詳細な解析を行った.
 地中レーダー探査で得られる反射記録は時間スケールであり,深さスケールで議論するためには地下媒質の正確な電磁波速度を求める必要がある.そこで本研究では地中レーダー探査プロファイル測定で適用可能な速度解析プログラムをVisual Studio 2015 C#を用いて開発し,BPF処理断面で分類したブロック別に正確な地下媒質の電磁波平均速度を求めた.本プログラムはセンブランス値を求めて最適な平均速度を評価する速度スペクトル法を適用した.センブランス値とはある時間窓に含まれる波形のトータルの入力エネルギーと同じ時間窓の中でスタックした波のエネルギーの比を表したものである(本多,2014).速度解析の結果から求められた電磁波平均速度は0.093~0.147 m/nsとなった.電磁波平均速度を求める上で,多重反射波が現われる複雑な構造に対してはBPF処理後に予測デコンボリューション処理を実施した反射記録で速度解析行うと最適な速度が求まりやすいことが明らかとなった.この予測デコンボリューション処理のパラメーターを決定するために必要な自己相関関数の計算も自作プログラムを使用した.速度解析によって求められた電磁波平均速度を用いて深度変換を行ったところ,明瞭な反射面群は遊歩道の路面から深さ4~5 mに集中することが明らかとなった.
 電気探査の解析には有限差分法による二次元比抵抗インバージョンを行った.電気探査の解析で得た比抵抗断面において比抵抗値が著しく低い領域は地表に硫黄ガスが噴出する噴出孔を伴う露頭の位置と対応していることが明らかとなった.このことから,比抵抗が著しく低い領域は熱水を通す層であると言える.
 電気探査と地中レーダー探査の統合解析からブロック1,2,3,4のいずれのブロックにおいても明瞭な反射面群が現われる領域は高比抵抗から低比抵抗に変化する領域に集中していることが明らかとなった.従ってレーダー波の明瞭な反射面群は熱水を通す低比抵抗帯と熱水を通さない高比抵抗帯の境界領域で現われることが明らかになったと言える.これは後生掛地熱地域大湯沼周辺の浅部地下構造の解明に寄与すると考えられる.