日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 海洋底地球科学

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:今野 美冴野 徹雄

16:00 〜 16:15

[SCG56-21] 精密な鉛直変位の測位に向けた拡張カルマンフィルタによるキネマティックGNSS音響測位手法の開発

*富田 史章1木戸 元之2本荘 千枝3松井 凌3 (1.北海道大学大学院理学研究院、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:海底地殻変動観測、カルマンフィルタ、リアルタイム測位

1.背景
GNSS音響結合方式による海底地殻変動観測(GNSS-A観測)は,観測船を用いたキャンペーン観測(e.g., Tomita et al., 2017)によって成果が挙げられている他,近年では係留ブイを用いた連続観測も試みられている (e.g., Kido et al., 2018).従来のGNSS-A海底局アレイ位置解析では,全海底局に対して同時測距を行うことで1ショット毎に測位解を得られるため(e.g., Spiess et al., 1998; Kido et al., 2006),連続観測によるリアルタイム測位も可能である.ただし,従来の手法は水平成分の測位解を得ることに主眼を置いており,鉛直成分のキネマティックな測位解の精密な測位は検討されていなかった.
一方で,富田・他(2018, 測地学会)は,拡張カルマンフィルタを用いたキネマティックGNSS-A測位(EKF-based GNSS-A測位)を試み,平均音速の時間変化に拘束を与えることで鉛直成分の測位解の精度向上を図れることを示した.しかし,どの程度の精度向上を図れるかは十分に議論できていなかった.

2.数値実験
富田・他(2018, 測地学会)で示したEKF-based GNSS-A測位手法を,数値実験データに適用した.ここでは,複数の仮想的な海底局配置(①4海底局による四角形配置,②6海底局による二重三角形配置,③4海底局による三角形と中心1点配置)に基づく観測点に対してシミュレーションデータを作成し,海底局配置の違いによる鉛直成分の測位解の挙動を検証した.その結果,海上の1点からでも多様な射出角の音響測距データの得られる海底局配置(上記,②・③)では従来のGNSS-A測位手法でもキネマティックな鉛直成分の測位解が得られ,かつ拡張カルマンフィルタを用いることでその測位精度が向上することが示された.

3.実データへの適用
EKF-based GNSS-A測位手法を,東北沖での観測船によるキャンペーン観測実データ(Tomita et al., 2017)に適用した.実データは,全て海底局配置②で得られたものを用いた.各キャンペーン内では,本来鉛直成分の測位解は時間的に変化しないと考えられるが,従来のGNSS-A測位手法と拡張カルマンフィルタを用いた場合の両者とも同じような緩やかな時間変化を持って測位解が変化し,キャンペーン内での標準偏差は両者ともおよそ10cm程度であった.このような大局的な鉛直方向の時間変化は,藤田・矢吹 (2003)の手法に基づいて得られる海上局のキネマティックGNSS測位の誤差と同様であったことから,キネマティックGNSS測位精度の向上によってある程度改善が見込まれると考えられる.一方で,短時間で見ると,EKF-based GNSS-A測位手法による解は,従来手法による解に比べてばらつきが小さくなっていることが確かめられた.上記の大局的な時間変動の影響を除くため,測位解の差分時系列を求めたところ,そのばらつきは従来手法で約10cm程度,拡張カルマンフィルタを用いた場合は約5cm程度であった.これらのことから,鉛直成分の測位解の確度については,キネマティックGNSS測位を含めた改善の余地があるものの,1ショットごとの精度については拡張カルマンフィルタの導入によって大きく改善されたと言える.

4.リアルタイム測位に向けた検討
拡張カルマンフィルタを用いる場合,適切なプロセスノイズを与える必要がある.尤度に基づいてプロセスノイズの最適値を検討したところ,どの観測点・どのキャンペーンデータに対しても最適値は同じような値をとったため,プロセスノイズを固定して解析をすることが可能であると考えられる.プロセスノイズが固定できれば,拡張カルマンフィルタの計算コストは非常に小さいため,係留ブイを用いた連続観測に適用できると考えられる.また,係留ブイを用いた連続観測では消費電力を抑えるため音響測距の頻度を高くできない問題点があるため,実観測データをリサンプリングすることで測位精度への影響を検証した.結果として,サンプリング間隔が30分よりも長いと従来の手法と拡張カルマンフィルタを用いた場合の測位精度の差はほとんどなくなることが分かった.そのため,拡張カルマンフィルタの導入による精度向上の恩恵が得るためには,30分よりも短いサンプリング間隔にする必要がある.