日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC36] 火山・火成活動と長期予測

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC36-P13] 岩手県西部, 小高倉火山の噴出物層序の検討とマグマ組成の変化要因の解明

*後藤 義瑛1藤縄 明彦2 (1.茨城大学大学院理工学研究科、2.茨城大学理学部)

キーワード:噴出物層序、ソレアイト系列マグマ、結晶分化作用、マグマ混合

研究背景・目的
 小高倉火山は岩手県西部, 仙岩地熱地域に位置する, 低アルカリソレアイト系列岩から成る第四紀成層火山である. 本火山の形成開始年代は1.2~2.3 Ma (K-Ar年代) とされる (須藤・石井, 1987). 東北日本に広く分布する低アルカリソレアイトマグマの組成多様性や組成変化メカニズムを理解する目的のために本火山の噴出物層序を明らかにし, 岩石学的データを蓄積してマグマ組成の時系列変化を高解像度で解明した. ソレアイトマグマの進化において, 従来主要とされてきた結晶分化作用に加え, 基盤岩の混染もしくはそれに由来する珪長質マグマの混入が本火山のマグマの組成変化に影響している事が判ったのでここに報告する.
地質概説
 本火山の山体は主に溶岩流で構成され, 推定噴出中心および流下方向の違いにより, 小高倉東部溶岩類 (KTE) と小高倉北部溶岩類 (KTN) に大別される. 野外で確認される被覆関係, 舌状地形の形状を基に岩相や全岩化学組成などの違いとクロスチェックする事でKTEは16層, KTNは7層に細分できた. 直接的な被覆関係は確認出来ていないが, 境界部では地形の残存状況からKTNはKTEに覆われると推測できる. また, KTNはKTEに比べ噴出物の風化, 露頭の侵食が著しい. よってKTNはKTEより早期の噴出物と考えられる.
岩石学的特徴
記載岩石学的特徴
 KTEには斑晶鉱物として斜長石 (Pl), 直方輝石 (Opx), 単斜輝石 (Cpx), 不透明鉱物 (Opq) が共通して認められ, 下位のKTE1~3にはかんらん石 (Ol) が加わる. 斑晶量は16.9~48.5%と多様である.
 KTNには斑晶鉱物としてPl, Cpx, Opx, Opqが共通して認められ, 下位のKTN1, KTN1' には石英 (Qrz) が少量含まれる. 斑晶量は19.8~41.5%と幅広い値を取るが, KTEに比べ平均斑晶量では5%程低い.
全岩主化学組成
 SiO₂量は49.1~60.9%の組成幅を持ち, ほぼ全ての噴出物がGill (1981) によるハーカー図によればlow-Kの玄武岩~安山岩である. また, Miyashiro (1974) 図によればKTN1, N1'を除きすべてソレアイト系列にプロットされる. KTEはSiO₂量の増加に伴いFeO*/MgOが増加する典型的なソレアイト系列の変化傾向を示す. 反対にKTNはSiO₂量の増加に伴いFeO*/MgOが減少する傾向を示す.
 KTE及びKTNは那須火山帯北帯に見られるソレアイト系列岩の組成範囲 (kawano et al., 1961) 内にプロットされる. また,同程度のSiO₂量で比較すると, Al₂O₃, CaO, 量は多くFeO*, MgO, Na₂O, 量は少ないといった特徴を示す.
全岩微量成分組成
 KTEの液相濃集元素は, ソレアイト系列の特徴を有し, SiO₂量の増加に伴い増加する. KTNでも基本的にその傾向が認められる. しかし, Y (イットリウム) の含有量はSiO₂の変化によらず, 全体を通じてほぼ一定の値を示す. つまり珪長質な組成の下位噴出物は, 同程度のSiO₂量を持つKTEの噴出物に比べ低い値を示す. その結果, Zr/YやRb/Yは他の噴出物とは異なり,1.2~1.5倍ほど高い値を示す.
考察
 KTEは島弧における一般的なソレアイト系列マグマの組成変化傾向を示すので, 最小二乗法を用いたマスバランス計算を用いて結晶分化の可能性を検討した. 結果大部分でKTEの組成変化は, 斑晶として見られる鉱物の分別作用で説明が出来る事が分かった. 組成が苦鉄質に戻る変化も複数回見られたものの, KTEマグマの組成のトレンドに影響を与えるようなものは無かった. KTEの組成変化は主に結晶分化作用によるものである. ただし, 液相分化作用又は同一起源未分化マグマの貫入等も起こっていた事が解釈出きる.
 KTNはKTEとトレンドが異なり, 一般的なソレアイト系列マグマとはFeO*/MgOがSiO₂量の増加に伴い減少する事や, 液相濃集元素比が変化する点で異なる. ここでKTNの初期の噴出物であるKTN1, N1'に着目する. これらは他の噴出物には見られない石英斑晶の存在, 液相濃集元素比が他の噴出物と異なり高く, ハーカー図上で他の噴出物が形成するトレンドと一致しないといった特異な挙動を示す. 以上のことはKTNのマグマの初期は単一のマグマ溜りから生成された者では無いことを示唆している.つまりKTNマグマの初期の組成変化の要因はマグマ混合であると考えられる. 今回珪長質成分として, 本火山の基盤岩の1つであり, この地域に広く分布する玉川溶結凝灰岩由来の地殻物質または珪長質マグマを想定したところ, KTN1, N1'の組成のマグマを生成出来る事が分かった.