JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG02] [JJ] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2017年5月24日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[BBG02-P03] 水田土壌オミクス解析から見えた陸域生態系における鉄還元菌の新たな機能-還元的窒素変換

*増田 曜子1伊藤 英臣2白鳥 豊3磯部 一夫1大塚 重人1妹尾 啓史1 (1.東京大学大学院農学生命科学研究科、2.産業技術総合研究所北海道センター、3.新潟県農業総合研究所)

キーワード:還元的窒素変換反応、Deltaproteobacteria、メタトランスクリプトーム、土壌生態系、鉄還元菌

湛水下の水田土壌において発達する嫌気的な環境下では、主に微生物が駆動する還元的窒素変換反応(窒素生成型硝酸還元(脱窒)、アンモニア生成型硝酸還元(Dissimilatory Nitrate Reduction to Ammonia, DNRA)、窒素固定)が進行する。これらの反応により水田土壌は『硝酸・N2Oの低排出』や『窒素肥沃度の維持』といった特徴を有している。我々は、従来法に比べて解析バイアスがはるかに少ないメタトランスクリプトーム解析の手法を用いて、新潟水田土壌の還元的窒素変換を駆動する微生物群集の包括的な解明を試みた。

 その結果、従来法ではほとんど検出されてこなかったDeltaproteobacteria綱細菌由来の還元的窒素変換酵素遺伝子の転写産物が高頻度に検出された。中でも、新潟水田土壌微生物の優占種であるGeobacter, Anaeromyxobacter属細菌に由来する硝酸還元酵素遺伝子(nar)、一酸化窒素還元酵素遺伝子(nor)、一酸化二窒素還元酵素遺伝子(nos)、DNRAの鍵酵素遺伝子(nrf)、窒素固定の鍵酵素遺伝子(nif)の転写産物が高頻度に検出された。これまでPCRベースの解析手法によって土壌からこれら鉄還元菌由来の還元的窒素変換酵素遺伝子はほとんど検出されてこなかったが、それは鍵酵素遺伝子のGC含量の高さが原因であると考えられた。

 Geobacter, Anaeromyxobacter属細菌は、これまで主に鉄還元反応を駆動する微生物(鉄還元菌)として考えられてきた。しかし本研究により、これらの細菌は鉄還元のみならず、DNRA反応や窒素固定反応によるアンモニア生成、部分的脱窒反応によるN2O消去を行っている可能性が高く、水田土壌における硝酸・N2O低排出や窒素肥沃度維持の要となっていることが示唆された。

 さらに本研究では、全国の水田土壌、河川の底泥、畑・雑草地・森林土壌由来の土壌DNAを試料とし、Geobacter, Anaeromyxobacter属細菌の16S rRNA遺伝子の定量を行った。その結果、これらの属の細菌は水田土壌や河川の底泥において優占しているほか、畑・雑草地・森林土壌にも分布していることが明らかとなり、広く陸域環境において還元的窒素変換を行っている可能性が考えられた。

 本研究は、水田土壌のみならず陸域生態系における“鉄還元菌”の新たな機能-還元的窒素変換-を提唱するものである。