JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] [EJ] 地殻変動

2017年5月22日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SSS10-P16] MCMC法を用いたプレート間カップリングを含むブロック運動モデルの構築

*木村 洋1伊藤 武男1田所 敬一1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:地殻ブロック運動モデル、ブロック相対運動、プレート間カップリング、マルコフ連鎖モンテカルロ法、GNSS

はじめに
 プレートの運動により、プレート境界面では大地震が発生している。大地震の発生のモデル化にはプレートの相対運動を考慮する必要である。Hashimoto and Jackson., 1993は小さなプレートを地殻ブロックとして導入することにより、日本列島及び周辺領域の地殻ブロック運動を三辺・三角測量データから推定した。その後、陸域のGNSS観測(GEOENT)の導入によって、より正確な内陸のブロック相対運動が明らかになるとともに、プレート収束帯のような地殻ブロック境界面におけるカップリングの空間分布も推定できるようになってきた。また、陸域の地殻変動観測データの精度向上と蓄積に加え、海底地殻変動観測技術の向上により海域の地殻変動場も明らかになりつつあり、プレート境界面上のカップリングを精度よく推定するためには、地殻ブロック相対運動及びブロック間のカップリングの相互作用を考慮する必要がある。そこで本研究では、プレートカップリングの空間分布を含む地殻ブロック相対運動、地殻ブロック間のカップリング空間分布を推定する新たな地殻ブロック相対運動モデルを構築した。本発表ではこれらの詳細について報告する。

既存の地殻ブロック運動解析プログラム
 多くの先行研究で使用されている地殻ブロック運動解析プログラムにDEF-NODE (McCaffrey., 1995)がある。DEF-NODEでは地殻ブロックの境界に矩形小断層を配置し、地殻ブロックの運動、地殻ブロック内歪、地殻ブロック境界面上のカップリングを未知パラメータとして非線形逆解析手法で推定する(例えば、Wallace et al., 2005)。
 一方、Loveless and Maede., 2010は日本列島およびその周辺領域を20個の地殻ブロックに分割し、陸域のGNSS観測データを用いることによって、プレート運動、地殻ブロック境界でのすべり速度、プレート境界面でのカップリングを重みづけ最小二乗逆解析手法で推定した。しかし、これらの手法では推定された未知パラメータの共分散を求めることができない。

本研究の地殻ブロック運動解析手法
 ある2つの地殻ブロックの境界Brijにおける地殻ブロックの相対運動Bvijは、2つの地殻ブロックのオイラーポールを用いて、Bvij=Brij×(ωij)と記述できる。地殻ブロック間の相互作用には、固着に伴う弾性的な応答が含まれるため、ブロック境界面に三角形小断層を配置し、バックスリップモデルで表現する。まず、地殻ブロック間の滑り欠損量χijはカップリング係数Cijを用いて、χij=CijBvijで求められる。弾性応答veはブロック間の滑り欠損量と弾性応答関数Gを用いて、ve=Gχと表現できる。カップリング係数は地殻ブロック境界面上での滑り欠損量を、地殻ブロックの相対運動で規格化した値である。観測された地殻変動データdは地殻ブロック運動と地殻ブロック間の滑り欠損に起因する弾性応答を用いてd=ve+Bv=GCij(rij×(ωij))+r×ωとなる。これは、地殻ブロック間の滑り欠損に起因する弾性応答に対して地殻ブロックの相対運動の関数になっているために非線形となっている。これらの方程式を各地殻ブロックの幾何学的な配置を考慮して組み合わせることで、地殻ブロックモデルを構築した。
 本研究では、地殻ブロック間のカップリングをマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)で推定する。MCMCは推定パラメータ間の共分散の評価が可能であり、これによってプレート境界深部のカップリングと上盤側の地殻ブロック運動との解の相関などを定量的に解釈することができる可能性がある。

地殻ブロック運動解析プログラム
 本研究で作成したプログラムの利点は、問題設定が容易にできることである。そのため、初期の段階で様々なモデルで試行錯誤することが可能であり、詳細なデータを与えることによって、より複雑なモデル設定も可能となっている。さらに、有限要素解析(FEM)を用いて作成した弾性応答関数を取り込むことができるようにする予定である。

テスト解析
 本解析プログラムを用いて西南日本及び周辺領域を11個の地殻ブロックに分割した地殻ブロックモデルを構築した。入力データは11個の地殻ブロック境界データのみで、これは最も簡単な問題設定の例である。図に各ブロックの配置を示した。

今後の予定
 本研究で構築した地殻ブロック運動モデルを用いることによって、ブロック運動を考慮したプレート間カップリングを求めることが可能になった。今後の予定としては、このモデルを用いて日本全体のプレート間カップリングを推定していく。さらに次の段階として、FEMを用いてプレート間の固着分布を求めていく方針である。