JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] [JJ] 生物地球化学

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 302 (国際会議場 3F)

コンビーナ:楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:和穎 朗太(農研機構 農業環境変動研究センター)、座長:仁科 一哉(国立環境研究所)、座長:稲垣 善之(森林総合研究所)、座長:藤井 一至(森林総合研究所)

14:15 〜 14:30

[MIS19-15] 骨コラーゲンの同位体分析によるマダガスカル絶滅種の食性解析

*畑中 美沙希1横山 祐典1小川 奈々子2宮入 陽介1Geoffrey Clark3大河内 直彦2 (1.東京大学大気海洋研究所、2.海洋研究開発機構、3.オーストラリア国立大学)

キーワード:マダガスカル、完新世、絶滅、骨コラーゲン、安定同位体比、食性

マダガスカルは独自の生態系で知られ、生息する動植物の80%以上が固有種であると言われている。しかし完新世後期における大型動物相の絶滅は著しく、過去2000年の間に少なくとも脊椎動物の17属が絶滅し、クロコダイルCrocodylus niloticusを除く12 kg以上の体重をもつ大型動物が絶滅したと推定されている(Burney and MacPhee, 1988)。その絶滅要因としては、人間活動(乱獲による個体数の減少、火の使用による生息地の縮小)や環境変化(乾燥化、植物相変化による住環境・餌環境の変化)との関連が示唆されている(Burney et al., 2004, Crowley, 2010)。マダガスカル南西部においては植物相分布の変化時期と大型動物相の絶滅時期が一致するとされる(Geoffrey Clark, 私信)が、両者の因果関係は明らかではない。

本研究では、絶滅動物の栄養段階やC3・C4植物レベルでの食性の経時変化の復元を行い、植物相変化や人類の移住と食性変化との関連性について評価することを目的とした。研究対象としてマダガスカル南西部のTaolambiby、Ambolisatra、Itampoloの3地点の異なる年代層から採取された絶滅種(コビトカバ・Choeropsis liberiensis)の化石骨試料を用いた。化学処理を経て化石骨からコラーゲンを抽出した後、抽出したコラーゲンの炭素および窒素安定同位体比を元素分析計/同位体比質量分析計を用いて測定し、シングルステージ加速器質量分析計によって年代測定を行なった。

測定されたカバ化石骨コラーゲンの暦年代は2750-1130 cal BPの値を示した。窒素安定同位体比は、2750 cal BPの1個体を除けば、Taolambiby(2個体)では9.6-10.1‰、Itampolo(6個体)では11.1-12.3‰、Amblisatra(3個体)では12.48-12.57‰の値を示し、同一地域では栄養段階が変動するほどの変化は生じなかったことが本研究により明らかになった。炭素安定同位体比は、Taolambibyでは-18.9--19.7‰、Ambolisatraでは-17.2--17.9‰、Itampoloでは-12.7--14.8‰の変動を示した。Taolambibyから東に約20km離れたBeza Mahafalyに生息する現生C3植物の炭素安定同位体比を測定し、純粋C3植物食動物の化石骨の同位体比の予測値を計算したところ約-31--17‰であった(Crowley et al., 2011)。同位体分別を考慮すると、C4植物食ならばより高い炭素安定同位体比を示すと予想される。この予測値と本研究の結果とを比較すると、Taolambiby、AmbolisatraではC3植物食、ItampoloではC4植物食寄りであり、同一地域ではC3・C4植物食に変動が起きるほどδ13C値に差が生じなかったことが明らかとなった。人類は2300 cal BP頃マダガスカル南西部に到来したとされており(Burney et al., 2004)、マダガスカル南西部でのカバの絶滅年代は1250-950 cal BPと推定されている(Geoffrey Clark, 私信)。加えて、Ambolisatraの堆積物中に見られる花粉記録から、この地域で植物相が1250 cal BP頃を境に激変したことが報告されている(Geoffrey Clark, 私信)。したがって、2600-1100 cal BPの間、すなわち人間が島へ到達してからカバが絶滅する直前まで、植物相の大規模な変化が起こったにもかかわらず、骨コラーゲンの同位体組成に反映されるようなカバの食性の変化は起きなかったことが示唆される。さらに、炭素安定同位体比の測定値より、Taolambiby・Ambolisatraに生息していたカバはC3植物食、Itampoloに生息していたカバはC4植物寄りと地域性が顕著に表れていることから、カバはC3植物・C4植物によらず生息域に生える植物を摂取していたという知見が得られた。すなわち、植物相の変化は植物食を通じてカバの体組織の同位体組成に影響を与えず、食物の不足はカバの絶滅の直接的な要因でない可能性が示唆される。