JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-05] 高校生によるポスター発表

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

13:45 〜 15:15

[O05-P28] 米ぬかに保持した好塩菌を用いた塩害土壌の回復

*西貝 茂辰1 (1.宮城県仙台二華高等学校)

キーワード:塩害土壌、食糧生産、微生物学

干ばつと不適切な灌漑により塩害は世界規模の深刻な問題となっており、土地の塩害化は世界が食糧不足に直面する一因である。この問題に対処し土地生産性を回復させるため、途上国にも適応可能・持続可能な塩害土壌改良技術は、「安価・迅速・単純・植物に無害」という基準を満たす必要がある。本研究では塩害土壌を、その地域で元々栽培できる作物が正常に生育できるようになるレベルまで、回復させていくことを目的とする。
根本的に、高度塩分濃度環境の塩害土壌はNa⁺とNaCl濃度が植物が生育できる程度にまで希釈される必要がある。NaClをさらに分解することはできず、また雨によって塩が農地外に流されるまでの期間においても農家に農業を可能にすることを目指しているため、NaClが植物が道管から吸収する水に溶け出ることを防ぐための仮説を立てた。
本研究では、酵母菌が米ぬかをエサとして増殖する過程で有機酸を生成する性質を積極的に利用する。好塩菌を保持した米ぬかが土壌と混ざったとき、有機酸の働きにより、土壌と付着しているNa⁺を分離する。次に好塩菌が増殖し、好塩菌が栄養の取り込みと同時にNa⁺を細胞膜内に取り込む。それにより、Na⁺と塩分濃度が低下することが予想された。
仮説を証明するため、2つの実験を行った。
まず好塩菌がNa⁺を吸収することを検証した。酒かすの懸濁液を遠心分離し、上澄みをpH5,6,8,9、塩分濃度4.4%のLB液体培地にて35℃で培養した。その結果、塩分濃度が継続的に下がり、pH6においては特に5日間の培養で3.7%にまで減少した。その変化が好塩菌によるものだと確かめるため、微生物の増殖至適温度範囲外である10℃の環境にLB培地を2日間放置すると、結果的に塩分濃度が変わらない、または4.4%に近づいた。しかし残る可能性として、塩分濃度が逆戻りしたのは培地中の養分が足りなくなったためだと考えられるため、再度35℃で培養を4日間行った結果pH6では3.2%まで下がった。よって、好塩菌はNa⁺を取り込んだと考えられる。
次に、カイワレ大根の水耕栽培を通した発芽率の差異と、米ぬかに保持させた好塩菌を人工塩害土壌に混ぜて塩分濃度の変化を検証することで、実用的な途上国での利用を目指した。
カイワレ大根の発芽率の実験では、酒かす懸濁液を遠心分離し、上澄みをカイワレ大根の生育可能できないとされる1.4%食塩水に混ぜた。その後20粒のカイワレ大根を20℃で、好塩菌を入れない1.4%食塩水と、上澄み(好塩菌)を混ぜた1.4%食塩水で栽培した。1週間栽培し発芽率を観察すると、好塩菌の有無で3倍もの発芽率の差が見られた。
人工塩害土壌の塩分濃度変化を検証する実験では、人工塩害土に好塩菌(酵母菌)を含ませた米ぬかを混ぜ、30℃の環境に放置した。その結果塩分濃度は培養を開始した1日目と比べて、3日目で15%減少した。
これらの実験から、この方法は途上国の塩害土壌の回復に有効だと考えられる。しかし同時に、効果と効率を向上させないと適応可能な技術にはなり得ないため、 さらなる実験を積み重ねていく必要性がある。
そして、塩分濃度の減少メカニズムと塩害土壌の再発防止策への深い理解は、塩害土壌を回復させるための技術の効率化に大きく貢献すると考えられる。