JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ] ポスター発表

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[O-05] 高校生によるポスター発表

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

13:45 〜 15:15

[O05-P69] 北九州平尾台カルスト 広谷湿原の復活(面積測量と地下水)

*松下 仁亮1、*小森 菜央1、*ウィリアムソン ケヴィン1、廣田 裕枝1 (1.東筑紫学園高等学校 理科部)

キーワード:カルスト、水質調査、地下水涵養、湿原、面積測量、平尾台

1.はじめに
理科部は1993年より、平尾台カルスト広谷湿原の調査を行っている。広谷湿原は日本で唯一カルスト台地に存在する貴重な湿原で、2016年3月に国の重要湿地に登録された。
2016年度は地学的な観点から、次の3点に注目して研究を行った。
・ 湿原の植生調査→面積測量→湿原復活の考察
・ 湿原の地下水涵養
・ 広谷の水質調査
2.広谷湿原の成因
“広谷湿原”のような小規模な中間湿原は、地史的には極めて短期間でしか存在できない。現在でも湿原が残っているのは、広谷に流れ込んでいた本流が、カルスト地形特有の洞窟“広谷の穴”に流れ込み、『三日月湖』のような存在になったためだと考察した。この考察は流量観測及び、遷急点の後退跡の測量の結果、証明することができた。カルスト地形特有の地下地形と地表地形が絡み維持された、奇跡的な湿原だと言える。
3.面積測量
○ 植生調査・・・湿原に人が踏み入ることは許されない。そこで2015年、ドローンを使い植生調査を行った(図1)。その結果、湿原の南側が2010年と比較して14%復活していることが分かった。
○ 面積測量・・・1994、2001、2010年とポケットコンパスを用い、湿原の面積測量を行った。そして2016年の春、4回目の測量を行った(図2)。その結果2010年と比べ、湿原面積が22%復活していた。また、湿原の南側が14.5%復活していたことから、植生調査の14%復活のデータと整合性がとれた。
また2017年の春、後述する地下水管理の効果を確認するため、5回目となる面積測量を行った。
現在、その製図作業を行っている。
○ 土壌硬度・・・今まで湿原と草原の境界は、地表面と地下水面の関係及び植生から探っていた。北九州大学の原口教授のアドバイスで、土壌硬度によってその境界を定め、数値化しようと、2017年の春に調査を行った。なお、湿原と草原の土壌硬度の違いは明確に定義されていないため、今回のデータが湿原の新たな調査法にできるのではないかと期待している。
.地下水涵養
○ 石積み・・・下流側の地下水涵養として、2000年に県が行った湿原保全工事の際に設置された石積みがある。湿原を流れる小河川の下流に石を設置、流速を抑え湿原の地下水面を上昇させようというもので、湿原内に4カ所ある。当初は大きな石が置いてあるだけで、その隙間を水が流れ効果がなかった。そこで理科部が平尾台に行く度、計1000個近くの小石を詰めてきた。
○ 堰板・・・2016年の測量の際に、取水口の近くに堰板の残骸を見つけた。もともとは、県が北の沼地の水位調節をするために設置された物だが、経年で腐り、機能していなかった。そのことで地下水への供給が減り、湿原減少につながったと考えている。
そこで、私たちは測量に使っていた木製のスケッチ板を堰板の代わりに設置したところ、翌日には北の沼地の水面上昇を目視でも確認ができた。なお、水位を一気に上げると湿性植物が水没してしまう恐れがあるため、植物の成長に合わせて1~2㎝毎に調節している。
このように湿原が復活しているのは、湿原の不透水層が残っていたためだと考えている。
水質調査
2016年度から、広谷の水質調査を定期的に行っている。水のイオン分析は北九州大学の原口教授にお願いしている。
サンプリング地点の、広谷本流の通し番号をC、南の湿原をM、北の沼地をSとした(図3)。C1は広谷メインの湧泉で、広谷をしばらく流下後、石灰岩帯にぶつかると広谷の穴(C4)に流れ込む。その後、鬼の唐手(C5)で地表に出た後、青龍窟に流れ込み、出口(C6)まで続いている。
湿原を流れる小河川のカルシウムイオン濃度は、平均しておよそ4.0mg/Lだった(図4)。一方、洞窟の出口(C6)は13.85mg/Lであることから、湿原の水は花崗岩帯由来であることが分かり、石灰岩帯を流下するにつれ、カルシウムイオンが増加することを証明できた。
面積測量から湿原復活22%のうち、7.5%を湿原西側(S5)の復活が占めている。これは、オオミズゴケの発達によるもので、オオミズゴケは酵素活性を阻害するカルシウムイオンを嫌うとのことだ。イオン分析の結果、S5のカルシウムイオン濃度は3.03mg/Lで、他の地点と比べても最低値となった。このことから、S5は湿原の他の水とは別水系の地下水で、カルシウムイオンの少ない水が湿原に供給されていると考えた。
6.おわりに
湿原は植生面から考察されることが一般的であるが、地学的に測量、そして土壌硬度から湿原を考察する新しい手法に挑戦したい。
これからも地下水涵養のメンテナンスを行い、化学的観点からも継続して広谷湿原の復活に貢献したい。
参考文献
横田直吉退職記念出版会 (1982)平尾台の石灰洞,日本洞窟協会,272pp.
原口 昭 (2013)日本の湿原,生物研究社,206pp