JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ] ポスター発表

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[O-05] 高校生によるポスター発表

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

13:45 〜 15:15

[O05-P80] 月面でのクレーターカウンティングによる『地球ブラインド効果』の検証

*鈴木 祥太1、*小森 絵美1、*若松 慶人1、*好井 匠人1、永田 広平、山本 清、樹山 さくら (1.関西創価高等学校)

キーワード:月、クレーター、年代学

要約
月は常に同じ面を地球に向けており,かつクレーターは表より裏に多いことから,我々は「地球が遮るため,月の表に衝突する隕石は裏より少ない=地球ブラインド効果」仮説を立てた.
隕石が月面に衝突しクレーターが形成される際,破砕された岩石はレゴリス層として堆積する.
我々はLunar Reconnaissance Orbiter(LRO)のデータから表・裏,海・高地のエリア毎に単純クレーターと平底クレーターの直径を比較し,①レゴリス層の薄いエリアでは大きい単純クレーターが減少し,より小さな平底クレーターが出現する,②レゴリス層の厚いエリアではより大きい単純クレーターが出現し,小さな平底クレーターが減少するという結果を得た.
これは,「地球ブラインド効果」仮説と矛盾しないばかりか,「月面におけるクレーター年代学では表と裏で異なるクレーター形成関数を用いる必要がある」「クレーター形状と直径の比較が地下構造を探る手がかりとなる」など,新たな可能性を示唆する興味深い結論が得られた.

1.はじめに
我々は,2012年に実施された月周回衛星GRAILを用いたNASAの教育プログラムMoonKAMに参加し,裏側を含む貴重な月面写真を多数撮影した.
月は常に同じ面を地球に向けており,かつクレーターは表より裏に多いことから,「地球が遮るため,月の表に衝突する隕石は裏より少ない=地球ブラインド効果」仮説を立て,MoonKAM画像を用いた仮説の検証を試み,得られた結果が仮説と矛盾しないことを見出した.
2016年からは,より鮮明なLROのデータを用い,直径が1km¬~20kmのクレーターを対象として比較検討を行うこととした.

2.計測方法
月の裏側では隕石衝突によって生成するレゴリスが厚く堆積していると考えられることから,(1)柔らかいレゴリス層の薄い部分では大きい単純クレーターが減少し,より小さな平底クレーターが出現する,(2)レゴリス層の厚い部分ではより大きい単純クレーターが出現し,小さな平底クレーターが減少すると推論し,その検証としてレゴリス層の厚さが異なると推定される表側と裏側,海と高地において,対象となる1180個のクレーターの形状と直径を比較した.

3.結果
縦軸は累積個数,横軸はクレーター直径とし,それぞれ常用対数をとって両対数グラフとした.
図1,図2,図3は概ね仮説と矛盾しないが,図4では,小さい平底クレーターの出現数に関して「表の海」より「裏の海」の方が若干多いという,仮説と矛盾する結果となった.

4.考察
比較に用いたクレーターのサンプリング地点は,表=湿りの海と雲の海,裏=モスクワの海である.形成年代を文献で調べたところモスクワの海の方が新しいことが判明した.これはモスクワの海のレゴリス層が薄いことを示唆しており,図4の矛盾について十分に説明可能である.
これにより「地球ブラインド効果」仮説が否定されないばかりではなく,「月面におけるクレーター年代学では表と裏で異なるクレーター形成関数を用いる必要がある」「クレーター形状と直径の比較が地下構造を探る手がかりとなる」など,新たな可能性を示唆する興味深い結論が得られた.

5.参考文献
・六車正治,寺戸聖菜,永田広平「小型クレーターの比較による,表側と裏側におけるレゴリス層厚の違いに関する考察」(日本天文学会ジュニアセッション予稿集,2013)
・六車正治,寺戸聖菜,永田広平「クレーターの直径と深さの関係に関する考察」(日本天文学会ジュニアセッション予稿集,2013)
・寺戸聖菜,松本諒大,永田広平「クレーターの形状と直径の関係から見た月の表と裏の違い」(日本天文学会ジュニアセッション予稿集,2014,2015)
・水谷 仁「クレーターの科学」(東京大学出版会,1980)
・諸田 智克「『かぐや』が切り開く月面年代学」(日本惑星科学学会誌,2011)