JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] [JJ] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2017年5月23日(火) 09:00 〜 10:30 105 (国際会議場 1F)

コンビーナ:臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、山口 亮(国立極地研究所)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)、座長:山口 亮(国立極地研究所)

09:00 〜 09:15

[PPS10-07] イトカワ粒子表面のサブミクロンクレーターの記載

*松本 徹1長谷川 直1圦本 尚義1,2 (1.宇宙科学研究所、2.北海道大学)

キーワード:レゴリス、小惑星イトカワ、クレーター

探査機「はやぶさ」は、S型小惑星イトカワ表層のレゴリス(細かな砂の層)から、数十から百ミクロンメートル程度の大きさの微粒子を回収した[1]。イトカワ表面への小天体衝突は、クレーター形成[2]やレゴリスの流動[3]、小惑星表面のスペクトルが変化する宇宙風化にも寄与した[4,5]と推測されている。このため、小惑星イトカワの地形変化や表面物質の時間発展を理解する上で、小惑星表層において様々なスケールで起こる衝突現象を理解することは重要である。
 はやぶさが回収した微粒子の表面には、衝突現象に起因するサブミクロンサイズのクレーター構造が見つかっている[6-8]。これらのクレーターは、極限られた数の微粒子表面に集中して見つかった。このことやクレーターの形態・面密度から、これらのクレーターは、イトカワ表面への小天体衝突によって生じた微小な破片が微粒子表面に衝突して形成した、二次的なクレーターであると推測されている[7,8]。しかし、これまで報告された微粒子表面のクレーターの個数はわずか24個であり、報告されたクレーターの形態や分布がイトカワ微粒子全体の特徴を代表しているかどうか判断できない。そこで本研究では、走査型電子顕微鏡を用いて、複数のイトカワ微粒子表面を詳細観察し、多数のクレーターの形態・分布の記載を行うことで、それらの起源を制約することを試みた。
 本研究では、10μmから200μm の大きさの微粒子34個に対して観察を行った。微粒子の観察は、宇宙科学研究所キュレーション施設に設置された走査型電子顕微鏡(日立SU6600)を用いて行った。2kVに加速された電子線を使って、微粒子表面の高真空下での二次電子像観察を行った。微粒子表面の鉱物相の同定は、エネルギー分散型X線分光分析装置(X-Max20)を用いて行った。
 観察の結果、いずれも80μm以上の大きさの8つの微粒子の表面に、10 nmから700 nm程度の大きさのクレーターを認識した。これらの粒子は観察した80μm以上の大きさの微粒子の約40%を占める。それぞれの微粒子表面に30個-100個程度のクレーターを確認した。クレーターはリムや内部に溶融物を伴っており、月レゴリス粒子表面で観察されているサブミクロンサイズのクレーターの形態[9]と良く似ている。3つの微粒子表面の約400個のクレーターのサイズ・面密度分布から、クレーターを形成した衝突物のフラックスを推定した。この際、クレーターが蓄積する年代は1000年と仮定した。これは、クレーターが存在する微粒子表面には、太陽風が鉱物表面に蓄積した痕跡であるブリスター構造が発達しており、その形成期間が103年程度と推定されることによる[5]。求めた衝突物のフラックスを、イトカワの軌道である1AUから1.5AUの範囲での惑星間塵ダストのフラックスモデル[10]、月レゴリスのサブミクロンサイズのクレーター形成物質のフラックス[9]と比較した。結果、求めた衝突物のフラックスは、惑星間ダストフラックスに比べて高い値を示し、月レゴリスにおけるフラックスと近い値を示した。月レゴリスにおいて、サブミクロンサイズのクレーターは、惑星間塵ダストの直接的な衝突でなく、二次的な衝突によって形成された可能性が高いと考えられている[8]。今回の結果は、イトカワにおいても月レゴリス同様に二次衝突が主な起源であることを示しており、大気のない天体表面において、二次的な衝突はサブミクロンサイズのクレーター形成において重要な役割を果たしていると推定される。
[1] Nakamura et al. (2011) Science 333: 1113. [2] Michel et al.(2009) Icarus, 200(2), 503-513. [3] Miyamoto, (2014) Planetary and Space Science 95: 94-102.[4] Hiroi et al. (2006) Nature 443(7107): 56-58. [5] Noguchi et al. (2014) MAPS, 49, 188–214. [6] Nakamura et al. (2012) Proceedings of the National Academy of Sciences 109(11) E624-E629. [7] Matsumoto et al.(2016) Geochimica et Cosmochimica Acta 187: 195-217.[8] Harries et al.(2016) Earth and Planetary Science Letters 450 : 337-345. [9] Morrison and Clanton (1979) LPS X, Abstract pp.1649-1663 [10]Jehn (2000). Planet. Space Sci., 48, 1429–1435.