JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] [JJ] 活動的火山

2017年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:前野 深(東京大学地震研究所)、座長:及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

11:45 〜 12:00

[SVC47-11] 阿蘇火山中岳における2016年10月7日~8日噴火とその噴出物

*宮縁 育夫1前野 深2中田 節也2長井 雅史3飯塚 義之4星住 英夫5田中 明子5伊藤 順一5川辺 禎久5大石 雅之6横尾 亮彦7大倉 敬宏7 (1.熊本大学教育学部、2.東京大学地震研究所、3.防災科学技術研究所、4.中央研究院地球科学研究所、5.産業技術総合研究所、6.立正大学地球環境科学部、7.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

キーワード:阿蘇火山、中岳、マグマ水蒸気噴火、噴石、火砕物密度流

阿蘇火山中岳では2016年10月7日21 時52 分に噴火が発生し,その後8日01時46分に爆発的噴火が起こった.後者の噴火では,噴煙が高度1.1万mにまで達し,熊本県・大分県・愛媛県・香川県の広範囲で降灰が確認された.筆者らはこの噴火発生の直後から阿蘇カルデラ内およびその東方域において降灰調査を行うとともに,火口周辺域においても噴出物の観察を実施した.本発表では噴出物の分布や特徴,顕微鏡観察や化学分析結果について報告する.
10月7日~8日噴火によって中岳第1火口近傍域においては多量の噴出物が堆積しており,第1火口南西側縁で掘削を行って確認できた堆積物の全層厚は約1 mであった.しかし,火口縁の退避壕等の埋没状況からは堆積物の厚さは最大1.5~2 m程度に達するものと推定され,どの地点においても火山灰から火山礫までを含む淘汰の悪い堆積物であった.また,堆積物上には径数10 cmの噴石が散在しており,最大のものは3×2.2×1.5 mの大きさであった.さらに,第1火口南西側の谷沿いなどには,比高0.5~1 m程度,幅数 mのローブ状の堆積地形も認められることから,火口近傍域に分布する堆積物の大部分は火砕物密度流によるものと考えられる.上空からの観察結果などから火口近傍域の堆積物量は4.5×105トン程度と推定される.
阿蘇カルデラから大分県にかけての地域で降灰調査を行った結果,10月8日噴火に伴う降下火砕物は中岳火口から北東-東北東方向に主軸をもって分布しており,500 g/m2以上の降灰域はほぼ阿蘇カルデラ内に限られるが,100 g/m2の降灰域は大分市南東部付近にまで達する非常に広い範囲に及ぶことがわかった.また,10月8日噴火では火口から東北東30 km付近の地域にまで火山礫サイズの火砕物の飛散が認められ,火山礫の最大粒径の分布主軸は,堆積量分布の主軸よりも東向きであった.降下火砕物の量は約1.8×105トンであり,火砕物密度流堆積物と合わせると,10月7日~8日噴火による総噴出量は6~6.5×105トン程度と概算された.
阿蘇カルデラ内で採取した降下火山灰の試料をふるい分けし,0.125~0.25 mmの粒子を用いて薄片を作製して偏光顕微鏡下で観察した.その結果,6割程度のさまざまな色調の岩片とともに,2割程度の新鮮なガラス片も含まれることがわかった.ガラス片の大部分はほとんど変質が認められない低結晶度の淡褐色ガラスと高結晶度の黒色~暗褐色ガラスであった.また,EPMAによってガラス片の化学分析を行ったところ,その化学組成は1979年や1989~1990年,2014年11月~2015年9月の中岳火山灰中のガラスとほとんど変わらないものであった.
今回の噴火は弾道放出や火砕物密度流の発生だけでなく,火口から30 km付近にまで火山礫サイズの火砕物が飛散するなど非常に爆発的なものであった.噴出物量的に見て2016年10月7日~8日噴火は,1979年9月6日や1990年4月20日の噴火と同程度の規模であったと考えられる.