JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC48] [JJ] 火山の熱水系

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院)、座長:大場 武(東海大学理学部化学科)

09:15 〜 09:30

[SVC48-02] 湯釜湖水のCl濃度・水安定同位体および精密震源分布から推定される草津白根火山の熱水系

桑原 知義1、*寺田 暁彦1大場 武2行竹 洋平3神田 径1小川 康雄1 (1.東京工業大学理学院火山流体研究センター、2.東海大学理学部化学科、3.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:草津白根火山、火口湖、塩化物イオン、水安定同位体比、微小地震

草津白根火山では山体各所に温泉湧出が認められる.これらの成因として,高温火山ガスが凝縮することで形成された共通の初期熱水が存在し,それらが様々な割合で希釈を受けたものと考えられている(山本・他,1997;平林,1999;Ohba et al., 2000).一方で,草津白根火山の山頂付近に存在する湯釜火口湖については,湖底に存在する噴出口を経由して流体供給が行われているため,その流体の化学的特徴はよく分かっていない.湯釜湖水の採取は容易であるが,その化学成分は湖底から噴出する流体のそれとは異なる.なぜなら,湯釜火口湖は天水流入や湖底漏水,湖面からの蒸発などの物質移動が無視できないためである.

そこで本研究では,火口湖における質量収支とエネルギー収支を解くTerada et al.(2012)の数値モデルに,Cl濃度および水素・酸素同位体比の時間変化を記述した微分方程式を追加した.このモデルから得られた計算値と,実際の湖水の溶存成分濃度を比較することで,火口湖の湖底から噴出する流体の溶存成分濃度を推定した.また,同火山で湧出する他の温泉水と比較することで,火口湖へ供給される流体の起源を検討した.さらに,微小地震の精密震源決定結果に基づき,その流体輸送経路を検討した.

湖水解析の結果,静穏期の湖底噴出流体のCl 濃度や水素・酸素の安定同位体比が推定された.水素同位体比とCl濃度の関係によれば,静穏期の湖底噴出流体はOhba et al.(2000)の天水および草津温泉などを結ぶ直線上に乗り,その延長に高温火山ガス(HTVG)領域が位置する.このことは,静穏期の湖底噴出流体は天水とHTVGの単純な混合で形成されており,草津温泉と同じ系統であることを示唆する.

草津白根火山では,2014年から活発な地震活動とともに地殻変動が観測され,湯釜火口湖の水温や溶存成分にも変化が認められた.同様の解析を行った結果,それ以前の静穏期に比較して,Cl濃度や安定同位体比が増加したことが明らかになった.この結果は,本活動期にHTVGの関与が増えたことを意味する.しかし,水素同位体比とCl濃度の関係は,天水とHTVGとの単純な混合では説明できない.この機構として,活動期においては地下浅部の熱水だまりにおいて気液分離が促進されたことや,従来とは異なる高温火山ガスが関与したことが考えられる.

そのような物理・化学過程が進行する場として,湯釜火口湖直下の不透水層の下に熱水だまりが考えられる.その位置を特定し,火山浅部の流体輸送経路を推定するため,Double Difference(DD)法による精密震源決定を行った.震源決定に用いた観測点は,東京工業大学が設置した湯釜火口湖の中心から約1 km以内に存在する6点で,うち3点はボアホール型である.解析対象は群発期を含む2013年8月から2015年3月までに発生した地震のうち,群発期とその前後の期間でマグニチュードがそれぞれ -1.4, -1.8以上あり,P波が5点以上で検測できた849個の地震である.本研究では,最初に桑原・他(2015)による同火山における最適地震波速度構造に基づいて震源を求めた.この震源を初期震源として,DD法による相対震源位置を再決定した.本研究では手動検測値による走時差データに加えて,波形相関を用いて位相差データを得た.波形相関による位相差データはP波,S波でそれぞれ60万ペア,28万ペアである.

その結果,火山流体研究センターが従来まで定常作業として決めていた震源よりも著しく集中度を増し,特に震源が集中する領域がいくつか見られるなど組織化した震源分布が得られた.本研究で新しく得られた震源分布は,その発生パターンに基づき,震源を2つの領域に分けることができる.海抜 900 m 以深の深部領域 では,2014年3月から同年8月まで地震が集中的に発生していた.一方,それ以浅の浅部領域の地震は,深部領域 の活動が衰えた2014年8月以降も,ほぼ一様の割合で発生していた.

両領域で発生した地震の波形を検討すると,深部領域の方がより低周波であった.その理由は,深部領域で発生した地震波が熱水だまりを通過する際に,その高周波成分が減衰したためであろう.このことから,火口湖直下の熱水だまりは深部領域と浅部領域の境界付近に存在することが示唆される.また,深部領域が活発であった期間は,熱水だまり付近が膨張する地殻変動が顕著であった時期に一致していた.このことは,HTVGから熱水だまりへの流体供給が深部領域の地震活動を駆動していたことを示唆する.この結果は,活動期にHTVGの寄与が増大したとする湖水解析の解釈とも整合的である.一方,浅部領域での地震は膨張率が衰退してからも継続した.これは,熱水だまりから湯釜火口湖への流体漏出を反映したものと考えられる.

謝辞 地震観測システムの改善にあたり,気象庁の鬼澤真也博士,秋田大学の筒井智樹博士,宮町凜太郎氏のご支援を頂きました.ここに記して深く感謝します.