日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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スポーツ文化研究部会 » 【課題A】グローバル課題の解決に向けてスポーツから何が提案できるか

スポーツ文化研究部会【課題A】口頭発表②

2021年9月7日(火) 13:30 〜 14:45 会場10 (Zoom)

座長:河西 正博(同志社大学)

14:25 〜 14:45

[スポーツ文化-A-08] 体育学における倫理の基盤とWell-Beingへの隘路

「完成(卓越)主義Perfectionism」そしてエグゼルシスへ

*林 洋輔1 (1. 大阪教育大学)

 本発表は体育学に属する各領域の研究を支える倫理基盤の実質を問い、その基盤に位置付く思想の端緒を剔抉し向後の研究指針を明らかにする。体育学が人間の身体運動を研究対象の基幹とする以上、斯学における「体育」を単にPEとして一義的に捉える見方は適切ではない。近年の研究では体育学における「体育」を広く捉え、「人間の幸福(Well-Being)に対する身体的・社会的基盤をつくる身体運動の総称」として捉える見方が提唱された。ところで体育学における「体育Taiiku」――狭義の体育(PE)とスポーツ、さらに健康増進を志向する各種の身体運動――の実質を議論する際、次の二つの問いがさらに問われねばならない。第一に、体育学に属する各領域が最終的に到達を期する達成目標、すなわち「幸福Well-Being」の実質とは何か。第二に、体育学はいかなる倫理基盤に支えられつつ「幸福Well-Being」に向けた学術研究を遂行するのか。本発表では双方への関心を議論の機軸とし、特に後者の議論を主題として扱う。というのも本発表の関心に照らせば、「幸福Well-Being」への到達を可能にするのは倫理基盤に裏付けられた学術研究であるからだ。
 本論と結論の大要は以下の通りである。体育学に属する研究は、とりわけ社会科学ならびに自然科学が体育学の特徴をよく示し、その起源と歴史や現状さらに未来が人文科学によって示される。「人間の身体運動」を研究対象として勝利・達成・習得・改善・治癒・解決などを期する諸研究は、倫理学の語彙における「完成(卓越)主義Perfectionism」に裏付けられたものであることが明らかである。結論としては、この「完成(卓越)主義Perfectionism」を学術史上に最も善く体現した「エグゼルシスExercice」の概念を以後に討究する意義が明示されることで本発表は終着する。