日本体育・スポーツ・健康学会第71回大会

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体育社会学/口頭発表⑤

2021年9月9日(木) 15:25 〜 16:15 会場4 (Zoom)

座長:松田 恵示(東京学芸大学)

15:25 〜 15:50

[02 社-口-10] <体育会系>就職最盛期に関する仮説生成的研究

1990年代の大学新卒採用と企業スポーツの文脈に着目して

*束原 文郎1 (1. 京都先端科学大学)

 ‹体育会系›が他に比して有利を得るという‹体育会系›神話は昭和初期に成立し、また社会文脈とともに変容しながらも今も残存することが報告されている(束原、2011;2013;2017;2018;2020;束原ら、2015;2017;2019)。だが、体育会系就職最盛期とされる90年代の大学新卒労働市場において、体育会系神話は実際にどのような形で現れていたのか、具体的には示されてこなかった。
 そこで本報告では、バブル絶頂期〜金融危機に活躍した元R社員フットボーラー3名(体育会系就職 / 採用当事者)の語りに耳を傾け、当時の実態と、その文脈を形成する企業スポーツと大学新卒就職市場のダイナミズムの一端を仮説生成的に記述する。R社は60年代より情報企業として大学新卒就職市場のマッチングビジネスを牽引し続けており、かつ90年代に企業スポーツの栄枯盛衰を経験した国内唯一の企業である。
 R社アメフト部では、仕事と競技の両方で日本一を追求するという目標の下、アメフト選手枠が設けられ、採用戦略の一環に位置づけられていた。そこでは、「働き手としての能力」を度外視した形で競技力によってのみ採用選考が行われるのではなく、あくまでR社の採用基準(成長可能性=地頭×根っこ(内発性+考動力)+素直さ)を満たすことが前提とされた。社内報に掲載されるような多くの優秀な営業マンを獲得し、また社長が交代しスポーツへの予算が減らされる中でも複数回にわたって日本選手権を制するという、まさに「仕事も競技もトップを!」という価値を実現した。
 この偉業は、当時のR社とアメフトという競技が置かれた社会文脈に依存していると考えられた。すなわち、当時のR社が最優良企業として認知されていなかったこと、および、当時のアメフトがいわゆる高偏差値大学で多く実施されたマイナースポーツであったことが、当該価値実現の前提条件となったと推察された。